■真相解明求めるWTA
WTAは11月14日、彭帥さんの安否について「深く憂慮している」と声明を出し、
「彼女の訴えは完全かつ公平に、透明性を保ち、検閲されることなく調査されなければならない」
と中国側に真相解明を求めた。スティーブ・サイモン最高経営責任者はツアー大会の中国からの撤退も辞さない決意を、米CNNに語った。
その毅然(きぜん)とした姿勢はビジネス面で考えると意外にも思えた。女子テニスは男子に比べて大会数など中国への依存度が高い。コロナ禍前の19年シーズンを見ると、ツアー全59大会中、9大会の舞台が中国だった。深センでの最終戦は30年までの契約で19年大会の賞金総額は1400万ドル(約15億8千万円)と破格だった。失いかねない商業的利益は甚大だ。
サイモン氏は12月1日、
「香港を含めた中国で開催予定の大会をただちに見合わせる」
と踏み込み、その理由を語った。
「中国側は信頼できる形で向き合ってくれていない。彼女が自由かつ安全で、検閲や強制、脅迫の対象になっていないかの疑いはぬぐえない」
中国のスポーツビジネスに精通するEMリヨン経営大学院のサイモン・チャドウィック教授に聞いた。
「スポーツの一団体が巨大な市場である中国と真っ向から対立するのはめずらしく、勇気ある行動だ。もっとも、WTAの成り立ちからすると理解できる」
男女同権運動が盛り上がっていた1973年、テニス界の女王だったビリー・ジーン・キングさん(78)は女子の賞金が男子より大幅に少ないことに反旗を翻し、選手仲間らとWTAを創設した。ジェンダー平等はWTAの背骨を貫く大原則だ。男性至上主義が根っこにあるセクハラ、パワハラがあったとすれば許容は出来ない、というわけだ。
また、テニスの場合、ほかの五輪競技と比べて国の代表というより、個人スポーツの色彩が濃い。各国のテニス協会を束ねる国際テニス連盟が国際オリンピック委員会(IOC)と関係が深いのに対し、WTAは選手を束ねる組合的な位置づけもある。プロの興行で経済的に自立し、五輪競技から外れても選手たちは生活には困らない。