岡山県のほぼ真ん中に位置する吉備中央町。のどかなこの町が「首都移転」を提唱する(写真/吉備中央町提供)
岡山県のほぼ真ん中に位置する吉備中央町。のどかなこの町が「首都移転」を提唱する(写真/吉備中央町提供)

 ドラマ「日本沈没-希望のひと-」が話題だが、首都機能の移転や分散は「ドラマの中だけの話」ではない。一極集中のリスクから、かねて「候補地」がささやかれたが、浮かんでは消えた。ならば、聞こう。令和の時代にふさわしい分散先は、どこか。AERA 2021年11月29日号の特集「日本沈没を検証する」から。

【那須、軽井沢、九州…識者が挙げる「首都機能分散」の意外な候補地はここだ!】

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「ドラマ『日本沈没』の脚本には一つ不満があります。首都機能の移転先を北海道に設定されていますが、ちょっと勉強不足だなと思うんです」

 こう嘆くのは、岡山県吉備中央町の山本雅則町長(63)だ。人口1万人余のこの町が、「遷都」に名乗りを上げているのをご存じだろうか。

 きっかけは、2017年に愛媛県で開かれた日本地質学会。岡山、広島、兵庫県にまたがる「吉備高原」の地下は一枚岩盤で活断層がないことが報告された。日本列島がアジア大陸と地続きだった約3400万年前の地層が、地震や火山活動の変動の影響を受けずに安定維持されていることも判明した。

 吉備高原のど真ん中に位置する町は、19年に「首都移転を考えるフォーラム」を開催。首都誘致の先頭に立つ山本町長は「小さな町から壮大な話を持ち出すのは恥ずかしいのですが……」と少しはにかみながら、こう直言する。

「日本人はリスク予防という観点が抜け落ちている国民だなと思います」

鉄道なくても移住者増

 吉備高原の面積は東京都の約4倍。高原地帯にあるため津波のリスクもない。鉄道は走っていないが、羽田空港と1日10往復の便がある岡山桃太郎空港までは車で25分。一帯は1970年代から岡山県が中心になって、「吉備高原都市」と銘打つ都市計画も進行中だ。町はスーパーシティ型国家戦略特別区域の指定に向け、デジタル化にも取り組む。

AERA11月29日号の特集「日本沈没を検証する」から
AERA11月29日号の特集「日本沈没を検証する」から

「安全な土地だという情報が広がって、特に東日本大震災以降は移住者が急増しました」と山本町長が言うように、東日本大震災以降(12~20年)、町への転入者は4135人に上る。

 コンピューターの集積拠点「データセンター」の最適配置を検討する経済産業省と総務省の有識者会合が今年10月に発足した。これを受け、山本町長は町への誘致を呼び掛けている。

「日本は政治も経済も東京一極集中。このままだと何かあったときに復旧復興を指示する政治も共倒れになります。危機に見舞われるのは明日か、あさってかもしれない。今そこにある危機を直視してほしい」

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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遷都ではなく「拡都」ってなに?