「特効薬」か「劇薬」か

 その一方で安倍氏には時間が経過しても拭いきれない疑惑がつきまとうのも事実だ。東京地検特捜部は18日、「桜を見る会」前日に開催された夕食会をめぐり、会場のホテルが発行した領収書を破棄したなどという政治資金規正法違反の疑いで配川博之元公設第1秘書(62)を嫌疑不十分、元会計責任者は起訴猶予とし、それぞれ再び不起訴処分にした。しかし、安倍氏本人は今も検察審査会の議決に基づき再捜査が進められている。

「この疑惑さえなければ、3度目の総裁選出馬もありと本人も周囲も思っている。そして、何としてでも自分の手で改憲を達成し、憲法9条の条文に手を入れたいという執念は衰えていない。岸田氏にはその覚悟と胆力は絶対にないと腹では笑っている」(安倍派中堅議員)

 対する岸田首相は安倍氏の影響力を一定程度に封じ込め、つかず離れずの関係で、安倍派に対して角の立たない安全運転を模索している。岸田首相が安倍氏と同郷で敵対する林芳正氏を外相に抜擢(ばってき)した人事は、岸田首相が持ちうる最大の牽制(けんせい)カードを切った格好だと、前出のベテラン議員は分析する。

「菅前首相は最大派閥が手を引いたことで見事に転覆した。それを見せつけられている岸田首相にとって安倍氏は無視できない存在。しかし肩入れし過ぎると国民からは政権そのものがダーティーな目で見られる」

 いずれにしても、党内最大派閥の長となっても、しばらくは政治の表舞台での直接的な振る舞いは難しい。安倍派は自民党の党勢拡大の「特効薬」か、それとも「劇薬」か。(編集部・中原一歩)

AERA 2021年11月29日号