ショートではジャンプミスも続き7位と出遅れた。そこから立て直す心の強さを得たのが今回の最大の収穫だった
ショートではジャンプミスも続き7位と出遅れた。そこから立て直す心の強さを得たのが今回の最大の収穫だった

■目標は五輪で表彰台

 氷に手をついてガッツポーズ。自己ベスト更新となるフリー197・49点を見ると、父と力強く握手をかわした。

「4回転3本の構成に関しては、去年からやってきたものだったので、4本入れるのに比べると不安はなかったです。やはり4回転が3本と4本の差は、どの選手に対しても大きなことだと思います」

「4回転4本」で苦戦したシーズン序盤の不安を吹き飛ばし、もう一度「4回転3本」の自信を強めた。

 全選手の演技後、自身が1位になったことを知った鍵山。ショート7位からの大逆転優勝で得たものは、逆境にあっても戦いに挑む心だった。

「ショートでここまでミスすることが今までなかったので、ショートが終わってからの気持ちの切り替えがすごく難しかったです。去年の成績や立場をすべて肩から下ろして、一から挑戦する立場として、ただひたすら思い切りやるということだけを考えたら良い演技になったことが、いい経験でした。最終目標は五輪で表彰台に上ること。そのためにも一試合一試合で何かしら成長して、その積み重ねで五輪のショートとフリーでノーミスができると思います」

 五輪の舞台で必要なのは、立場や成績の重圧をいかに忘れることができるか。それは五輪の魔物を追い払うことにつながる重要なヒントになるはずだ。(ライター・野口美恵)

AERA 2021年11月22日号より抜粋