一方、長距離巡航ミサイルは飛行機のように自ら針路を変えながら飛翔するため、針路の予測に基づく迎撃は不可能に近い。ただし、速度は弾道ミサイルに及ばないため、高性能防空システムで迎撃できないことはない。そのため、巡航ミサイルによる攻撃には大量のミサイルを発射する必要が生じる。

 中国軍の新型兵器が採用した「部分軌道爆撃システム」とは、ミサイルを地球の周回軌道に打ち上げて軌道上から目標を攻撃するという原理だ。60年代後半にソ連軍が実用化したものの、米国との第2次戦略兵器制限交渉によって廃棄させられた経緯がある。この原理を中国軍が再び実用化したのである。

■米防衛システムが無力

 このシステムを用いると、地球上のどこでも攻撃可能なことになる。要するに中国軍の新型極超音速ミサイルの射程は無限になる。そして、文字通りにミサイル弾頭には極超音速滑空体が採用されている。この滑空体は、長距離巡航ミサイルのように自ら針路変更を繰り返すことが可能で、少なくとも音速の5倍(マッハ5)以上の超高速で攻撃目標に突入することになる。自ら変針を繰り返しつつ攻撃目標に接近する極超音速滑空体の飛翔経路を、放物線を描く弾道ミサイルのように推測することは不可能だ。

 したがって、米軍が開発してきた弾道ミサイル防衛システムや各種高性能防空システムは、現状では、中国軍の新型極超音速ミサイルには無力と言わざるを得ない。さらに米軍にとって悪いことには、新型極超音速兵器の弾頭に中国軍が開発を重ねてきた「対艦攻撃用」の極超音速滑空体が装着された場合、米海軍の空母や強襲揚陸艦は世界中の海域で深刻な脅威にさらされることになる。中国からはるかに離れたアラビア海や大西洋、そして地中海などを航行中の米海軍空母や強襲揚陸艦を撃沈することも可能になるからだ。

 このように、これまで世界最強とされてきた米海軍空母艦隊は、その地位を失いつつあるとするならば、米国の海軍力を根幹とする日米同盟に自国の運命を頼り切っている日本の国防への影響は計り知れない。日本政府も国民もこのことを認識するべきであろう。(軍事社会学者・北村淳)

AERA 2021年11月22日号