10月31日、ハロウィーンの夜に日本中を震撼させた凶行。電車という「密室」で自分の身を守るにはどうすればいいのか。 AERA 2021年11月15日号から。

【写真】乗客16人がのどの痛みを訴えるなどして病院に運ばれた

凶行に遭った乗客らはお互いが協力して逃げた。その様子はツイッター上で拡散され、事件の恐怖が伝えられた[写真:ツイッター(@siz33)の動画から]
凶行に遭った乗客らはお互いが協力して逃げた。その様子はツイッター上で拡散され、事件の恐怖が伝えられた[写真:ツイッター(@siz33)の動画から]

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 もはや他人事ではない。

 東京都調布市の京王線国領駅付近を走行中の特急電車内で10月31日、乗客17人が刺傷される事件が発生した。殺人未遂容疑で警視庁に逮捕された服部恭太容疑者(24)は取り調べに対し、「ハロウィーンで電車内に人がたくさんいるから、大量殺人できると思った」などと供述しているという。

 今年8月には小田急線の車内で同様の事件が発生し、10人が重軽傷を負ったばかりだ。普段何げなく乗っている電車が突然、凶行の現場と化すことが現実となった。私たち一人ひとりが自分の身を守るためにできることは何か。

 鉄道ジャーナリストの梅原淳さんはこう話す。

「乗ろうとしている車両が何両目なのかを把握することが大切。危機管理の観点からすれば、例えば10両編成の列車の場合、2両目と9両目は比較的リスクが低いと言えます」

 電車はいわば移動する「密室」だ。車内で異常事態が発生した場合、何よりも急ぐべきは乗務員に異常を知らせること。そして電車を停止させ、車内から一刻も早く脱出することだ。

「各車両に設置されているSOSボタンで車掌と通話することができるのですが、今回の事件のような緊迫したケースでは悠長に話してなどいられません。最前部の運転室や最後部の車掌室まで走っていって異常を知らせたほうが、結果として早いことが多い」(梅原さん)

■無警戒からの意識改革

 ただし1両目と10両目は隣の車両への逃げ道が1方向だけに限られているため、リスクが高い。実際、2015年に東海道新幹線の1両目で男が焼身自殺を図り、火災が発生した事件では、逃げ場を失った女性1人が死亡し、28人が煙を吸うなどして重軽傷を負った。このことからも、乗務員室に近く、行き止まりではないという条件を満たす2両目と9両目に乗るのがベターな選択だという。

 では、今回の事件のように、刃物を手にした人間が目の前に現れた時はどう対処すればいいのか。

「電車に乗っていると、ほとんどすべての方がスマホを見たり、居眠りしたりしている。いわば無警戒の状態。まずはそこの意識改革が不可欠です」

 こう指摘するのは、実戦的な護身術を教える「MagaGYM(マガジム)」(東京都)の西尾健チーフインストラクターだ。

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