■麻生邸との違いは何か

 要人警護はさまざまな情報に基づいて判断される。一概に「税金の無駄」と断じるのは避けるべきだろう。だが今、安倍氏は「前首相」でもなくなり「元首相」になった。それでも公費を注いで私邸周辺の警備が続くのはなぜなのか。

 ちなみに、安倍氏の私邸から数百メートル離れた、麻生太郎邸の前にはポリスボックスが置かれ、警官1人が配置されているだけだ。麻生氏も首相経験者で、岸田政権の発足までは副総理や財務相を務めた。この違いは何を意味するのか。

 確かなのは、安倍氏の政界での影響力を示す一つのバロメーターという見方だ。

「安倍・菅政治」と称されるように、安倍氏は後継の菅政権に大きな影響力をもっていた。これが岸田政権でも継続していることは、10月11日の各党の代表質問に対する岸田文雄首相の国会答弁からもうかがえる。

「分配なくして成長なし」という立憲民主党の枝野幸男代表に対し、岸田首相が強調したのはアベノミクスの成果だった。森友学園をめぐる公文書改ざんでは、「結論が出ている」として再調査を否定。自民党が河井案里氏側に渡した1億5千万円の使途についても、党本部としてチェックする考えはないとした。

 共同通信社が10月16、17の両日に実施した全国電話世論調査では、岸田政権が安倍、菅両政権の路線を「転換するべきだ」との回答が68.9%に達した。

 安倍邸の周辺警備はいつまで続くのか。その答えは総選挙の結果次第なのかもしれない。(編集部・渡辺豪)

※AERA 2021年11月1日号

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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