AERA 2021年9月20日号より
AERA 2021年9月20日号より

「日本郵便の社員を連れてくるから、『土地は局長にしか貸さない』と言ってくれ」

 土地を貸すことに同意していた男性は不思議な気がしたが、顔なじみの局長の頼みでは断りにくい。実際に翌日、局長が連れてきた社員2人に対し、「局長さんにはいつも世話になっていますから」と、教わったセリフをそのまま告げた。面談は立ったままで、10分にも満たない「儀式」のようなものだった。局長が勤め先の取引を妨害した疑いが濃い。

 また、男性は局長に「借地料は月5万円以上」と伝えていた。郵便局のために安くしたつもりだったが、局長側は社員との面談後、「月2万円」と言い出して譲らなかった。着工が遅れると周囲の目も気になるようになり、区画を変えて「言い値」を受け入れたという。

 東海地方に住む70代の男性は昨年、畑の一角を郵便局長に売った。「局長と面識はなく、契約当日に初めて会った」と証言する。地元の不動産業者が「日本郵便ではなく局長に譲って」と頼んできたといい、「変だとは思ったが、価格がよければ、どっちに売ったってよかった。そういうものでしょ」と話す。

■仲間に利益誘導の恐れ

 日本郵便は局長が局舎を取得する際、支社の社員が地主と会って直接取引する意思が本当にないかを確かめる。「局長にしか確保できない理由」を明確にする必要があり、地主が取引を拒む理由は「対応記録表」に記されて本社に届く。取締役会も1件ずつ確認しているはずだ。

 局長が保有する局舎の賃料は、民営化当初に相場より2~3割ほど高い契約があると指摘され、10年以降は利幅を相当削っている。それでも局長が局舎取得に邁進(まいしん)するのは、旧特定郵便局長らでつくる「全国郵便局長会」が、自ら局舎を持つ「自営局舎」を推進しているからだ。地域貢献に役立つとの名目だが、本当にそれだけなのか。

 過去3年の移転局舎240局の登記簿をみると、全国各地の「郵便局長協会」が少なくとも52局で約33億円を融資していた。金利は年0.8~2.4%で、過去3年分だけで年数千万円の利息収入が生じる。物件を担保とせずに融資する例もあるといい、実際の融資額や利息収入はもっと多いとみられる。

 郵便局長協会の役員は、各地の郵便局長会の幹部と重なる。「会社の取引を阻害し、仲間内に利益を誘導している構図ではないか」(八田進二・青山学院大名誉教授)との指摘もある。

 日本郵政の増田寛也社長(日本郵便取締役)は8月末の記者会見で、確認するなかで問題は見つからなかったと説明した。郵便局長協会が利息収入を得ていることは「十分な情報がない。問題にすべき点があるかは(日本郵便に)聞いてみたい」と述べるにとどめ、いつもの歯切れのよさはなりを潜めた。

 非常識な慣習をただせるか、今はまだ見通せない。(朝日新聞経済部・藤田知也)

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