日本郵便の社内資料。郵便局長が局舎を取得する時の流れが解説されている(撮影/藤田知也)
日本郵便の社内資料。郵便局長が局舎を取得する時の流れが解説されている(撮影/藤田知也)

 日本郵便が18~20年に移転を公表した240局の不動産登記などを調べると、少なくとも73局の所有者が21年時点の局長と一致した。元局長が所有する物件も5局あった。新しくできた郵便局でも、少なくとも5局は局長が保有。それらのほとんどが、新築の一戸建てだった。

 土地についても見ていこう。

 局長が保有する73局のうち40局は、移転前の2年以内に取得されていた。残る土地も、移転にあわせて地主から借り入れている土地が多い。局長自ら先回りし、地主と交渉して土地を買ったり借りたりしているのだ。日本郵便の歴とした「社員」であるにもかかわらず。

 想像してみてほしい。大企業の拠点となる不動産を社員が先回りして我が物にし、勤め先に貸し出して賃料を得る構図を。

 企業と役職員との個別取引は利益相反や不当利得が生じやすい。原則禁止とし、本当にやむを得ない場合には透明性や合理性を明確にするのが企業経営の常識でもある。

 日本郵便も民営化後、局長が局舎を持つ条件を社内ルールで定めてきた。最優良の物件であるのは当然のこと、(1)日本郵便が地主と直接取引できない(2)公募をしても他に優良物件が見つからない(3)取締役会で決議する──といった条件も満たすことが必要だ。

 ここで注目したいのは条件(1)。局長が最適な移転先を見つけたとしても、日本郵便が地主と直接取引し、局舎も建てるという「普通の姿」が大原則なのだ。

 地主が日本郵便との取引を拒み、「局長以外に土地は譲らない!」と主張するような特殊事例でもない限り、局長が局舎を取得するなど認められない。つまり、不動産取引の相手として大企業である日本郵便よりも、局長個人にこだわる地主が、3年間で70人超もいたことになる。不自然ではないだろうか。

■「儀式」でルール回避

 こんな事例がある。

 信越地方の山あいの集落で3年ほど前、国道沿いの土地を持つ60代の男性が、地元の郵便局長からこう懇願された。

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