菅首相は、高齢者向けの2回の接種を7月末までに終わらせるため「政府を挙げて取り組んでいく」と述べたが、先行きは不透明だ(c)朝日新聞社
菅首相は、高齢者向けの2回の接種を7月末までに終わらせるため「政府を挙げて取り組んでいく」と述べたが、先行きは不透明だ(c)朝日新聞社
AERA 2021年5月17日号より
AERA 2021年5月17日号より

 欧米諸国でワクチン開発と接種が進む中、未だに日本は国産ワクチン承認・生産にこぎつけていない。ただでさえ出遅れているうえに、治験の倫理的な壁が立ちはだかる。AERA 2021年5月17日号から。

【図】ワクチンを1回接種した人の割合 日本は?

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 新型コロナワクチンの接種が、日本では一向に進まない。調達の海外頼みが裏目に出ており、国産化は喫緊の課題だ。

 現在、「周回遅れ」の国産ワクチン開発も、遺伝子組み換えたんぱくを使う塩野義製薬、米ファイザーと同じくメッセンジャーRNA(mRNA)を用いる第一三共など数社が臨床試験(治験)に入っている。河野太郎行政改革担当相は先日、「早ければ国産ワクチンを年内に承認」とテレビ番組で述べた。

 だが、ことはそう簡単ではない。後発特有の「倫理の壁」にぶち当たっているのだ。4月16日に開かれた「医薬品開発協議会」で参考人の塩野義製薬社長・手代木(てしろぎ)功氏は「ワクチンの普及で、プラセボ(偽薬)対照の試験が実施できなくなる可能性がある」と窮状を訴えた。

 通常の治験では大規模な第3相試験で、プラセボと比較してワクチンの有効性、安全性を最終確認する。ファイザーは、プラセボとワクチンをそれぞれ2万人以上に投与して国際共同第3相試験を行った。昨年12月に同社が発表した試験データでは、コロナ感染歴のなかった3万6523人のなかで発症したのは170人。うち8人がワクチン群、162人がプラセボ群で発現し、ワクチンの有効率は95%とはじき出している。

 問題は、偽薬を打って多くの人に感染させることだ。何人かは確実に重症化する。ワクチンも治療薬もない緊急事態下では「公益」のために偽薬投与も認められた。しかし、すでに米英独ロ中印の6カ国でワクチンは完成し、世界中で打たれている。わざわざプラセボで感染者を増やすのは許されない、という倫理的な壁に直面し、国産ワクチンは立ち往生しているのである。

■制御した感染実験の案

 では、この壁を突破する方策はないのだろうか。第一三共とともにmRNAワクチンを開発している東京大学医科学研究所教授で、免疫学者の石井健氏は、次のように語る。

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