「第3相試験の代わりに先行するワクチンと、中和抗体価(ウイルス感染を阻もうとする抗体の量や強さ)などを比べて免疫効果があることを示す。あるいは人工的に十分に制御した状態で100人程度の若いボランティアにワクチン候補を投与して感染実験を行い、有効性、安全性を検証すればいい。何万人もの人にプラセボを投与するよりも近代的で、安全です」

 制御した感染実験は、一般に「ヒューマン・チャレンジ試験」と呼ばれており、英国ではすでに承認されている。過去にも腸チフスやコレラの治療薬、ワクチン開発のために被験者を病原体にさらす研究が行われた。「ボランティアには大金を払ってもいい。とてもイノベーティブな手法であり、日本のワクチン開発の潮目を一気に変える」と石井氏は説く。

 ただし、腸チフスやコレラは治療可能だが、コロナの治療法はまだ確立されていない。若者でも重症化する恐れがあり、長期的影響も未解明。懸念はつきまとう。安全性に神経をとがらせる日本の厚生労働省や医薬品医療機器総合機構(PMDA)は、リスクを受けとめられず、チャレンジ試験には及び腰だ。

 ワクチンの国産化が進まない根本的な原因はそこにある。(ノンフィクション作家・山岡淳一郎)

AERA 2021年5月17日号より抜粋