デリバリーを支えるのが配達員だ。配達用のバッグと自転車かバイク、連絡を受けとるスマートフォンさえあれば、自分の都合に合わせて働くことができる。会社に縛られない「自由な働き方」として肯定的にとらえられることも多い。

 そして、コロナ禍で失業者が10万人を超える中、雇用の受け皿にもなってきた。ウーバージャパンによると、同社の配達員は全国に約10万人、35都道府県でサービスを展開しているという。

 市場調査会社「エヌピーディー・ジャパン」(東京)によると、国内のフードデリバリーの市場規模は、20年は6264億円と前年比50%増になった。

 すさまじいスピードで拡大するフードデリバリーだが、その陰で、配達員は厳しい状況に陥っている。

 東京・新宿。マクドナルドの前には、フードデリバリーのバッグを抱えた配達員が何人も集まっていた。彼らは「地蔵」と呼ばれる。まるで道端の地蔵のように動かず注文を待っているからだ。

「仕事の奪い合いです」

 地蔵をしていた男性(36)は、疲れた顔で話す。PR会社で働いていたが人間関係に疲れ、2年ほど前からウーバーの配達員を始めた。以前は週5日働き、月30万円以上の収入があった。だが、コロナ禍で仕事をなくした人たちが配達員に流れてくるとパイの奪い合いで、収入は一気に半分近くに減少。今年から他社のデリバリーの掛け持ちを始めたが、収入は3割近く減ったまま。妻子がいるという男性は言う。

「何の補償もないし、そろそろ潮時」

 地蔵をしていた別の男性(41)も「体力的にもきつい。稼げるうちに稼いでおかないと」と疲れた体にむちを打つ。

 配達員の疲弊の背景には、デリバリー業界が抱えるいびつな構造がある。

 ウーバーをはじめ多くの運営会社の配達員は、運営会社が提供するスマホアプリを介し、飲食店と配達ごとに業務委託契約を交わす「個人事業主」。運営会社とは雇用関係になく、労災や雇用保険の適用対象外で、所得補償も不十分だ。そうした中、労働環境のさらなる悪化が懸念されている。

 3月上旬、東京・永田町の衆議院議員会館でこんな緊急声明が出された。

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