性暴力をなくし、被害者が「その後」を生きやすい社会にするにはどうしたらいいか。齋藤さんは、適切な性教育と支援機関が重要だと説く。

「性教育とは『性器の名称』を教えることだけではなく、相手の心と体の境界線を尊重すること、同意なく侵害する性的言動は暴力であり、人権侵害であると教えることを含みます。何が性暴力であるかを大人が知り、義務教育の段階から伝えることが大事です」

 支援面では、日本では性暴力を受けた際に早期支援を行う「ワンストップ支援センター」などが各都道府県に設けられているが、知名度は不十分で、被害に遭ってもどこに相談していいかわからない人は少なくない。数十年経って性被害に遭っていたと認識する人も多い。支援機関の存在が周知され、被害から中長期経った人も安心して相談できる施設が必要と語る。

「あらゆるセクシュアリティー、あらゆるジェンダーの人が性被害を受ける可能性があります。しかしそれが当たり前のような社会は問題です。性暴力の発生、被害者の苦しみに、現在の社会のどのような在り方が影響しているのか、私たちは学び、考え続けなければいけません」(齋藤さん)

 先の郡司さんは、フラッシュバックに苦しみながら、一人の人間としてありのままの自分を大切にしてくれる人たちとの出会いによって回復していった。今、苦しむ人に呼びかける。

「つらい経験があって、苦しんだり、自分を責めているかもしれません。しかし、そのつらさの原因をつくったのは加害者です。自分が悪いと思わないでください。そして、社会を変えていかないと私たちは救われません。私は今、幼児からの性教育や子どもの権利を日本に根づかせる活動をすることで救われています。世の中を変えていくことに目を向けると、少しずつつらさから解放されるかもしれません。希望を持って生きましょう」

(編集部・野村昌二)

AERA 2021年3月29日号

著者プロフィールを見る
野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

野村昌二の記事一覧はこちら