トラウマからの回復は容易ではない。だが、カウンセリングなど心理学的・精神医学的なアプローチの有効性が指摘されている。いま最も科学的に根拠がある治療法として注目されているのが、「持続エクスポージャー療法(PE療法)」と呼ばれる治療法だ。「PE」はProlonged Exposure Therapyの頭文字を取っていて、エクスポージャーは「曝露(ばくろ)」の意味。苦痛を感じるために避けているトラウマ記憶に繰り返し向き合う曝露(エクスポージャー)技法を行い、治療者と話し合いを重ねて記憶を整理していく。性被害者のPTSDの治療法として1990年代ごろアメリカで開発され、日本でも16年4月から保険適用となった。

 PE療法のスーパーバイザーの資格も持つ齋藤さんによると、治療は、専門教育を受けた精神科医や臨床心理士と週1回90分程度のセッションを平均8~15回行うという。

 療法には三つの柱がある。まず、過去のトラウマ記憶にゆっくり向き合い、記憶を整理整頓していく「想像エクスポージャー」。次に、現実生活の中で危険ではないのにトラウマを想起させるために避けているものに少しずつ近づき、それは安全だという感覚を取り戻していく「現実エクスポージャー」。最後に、自分や社会に対するバランスの良い考え方を取り戻していく「プロセシング」──。この三つを同時並行で行っていく。

「例えば、加害者がある芸能人に似ていて、その芸能人を見ると事件を思い出すという場合、まずその芸能人の写真を見るところから始めます。最初は恐怖を感じますが、徐々に、加害者とこの芸能人とは違う人で、写真を見るだけでは怖いことは起きないと実感できるようになります。最終的に、被害に遭ったのは過去で、今は安全だという感覚が得られてきて、生活の幅が取り戻されていきます」(齋藤さん)

■性暴力をなくしていくには適切な性教育と支援機関

 日本のある機関の結果では、PE療法を中断した4%の人を除く94%のほとんどの例で改善が見られたという。もちろんPE療法は誰にでも適用できるわけではない。他のカウンセリングを勧めることもあり、専門家とよく話し合うことが必要だ。

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