「今も私を苦しめる父のことは一生許せないし、許す必要もないと思っています。許せないのに、形だけ謝られ、すっきりされても嫌なので、謝罪も求めていません」

■被害の後も苦しみが続くPTSD発症率も高い

「魂の殺人」と呼ばれる性暴力。内閣府が2018年に公表した調査では、女性の13人に1人(7.8%)、男性の68人に1人(1.5%)が無理やり性交などをされた経験を持つ。その苦しみは、被害に遭った時だけでは終わらない。「その後」の苦しみが続く。

 先の内閣府の調査では、無理やり性交などをされる被害に遭った人の生活上の変化で最も多かったのは「加害者や被害時の状況を思い出させるようなことがきっかけで、被害を受けたときの感覚がよみがえる」が21.3%、次いで「異性と会うのが怖くなった」(17.7%)、「夜、眠れなくなった」「誰のことも信じられなくなった」(16.5%)と続く=31ページの表。

 目白大学で講師を務め、被害者支援都民センター(東京)で被害者の心理的ケアにも携わる公認心理師の齋藤梓さんによると、性暴力被害者がフラッシュバックなど心的外傷後ストレス障害(PTSD)を発症する確率は、交通事故や自然災害など他の出来事の被害者に比べ、極めて高いという。

「アメリカの調査で、災害や交通事故に遭った場合のPTSDの発症率は10%弱なのに対し、性被害の場合は50%程度という結果があります。背景の一つは、性被害は被害を誰かに相談したり気持ちを分かち合ったりすることが難しく、精神状態に大きな影響を与えていることが考えられます」

 冒頭の女性のように、実父から受ける性被害は、特にその後の影響が甚大だと齋藤さんは言う。

「親は本来、一番初めに信頼し自分を守ってくれる存在。その親から性的なモノのように扱われることで、より一層、自分を大事にできない感覚や自分に対する否定的な感情が生まれ、社会そのものを信頼できなくなります」

 実名で性被害を公表している都内在住の郡司真子(まさこ)さん(52)は、不特定多数の人と性的関係を持って自身を性的に傷つける自傷行為に苦しんだ。

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