■人手は有意に増加

 宮城県では、Go To イート再開に先立つ2月8日、仙台市内の飲食店に出されていた時短営業要請が解除されている。2月は飲食店の閑散期だが、解除によって夜の街の人出は有意に増加した。また、3月5日には利府町に大型商業施設「イオンモール新利府 南館」がオープン。地元紙によると、開店前に2000人が並ぶなど多くの人が集まった。

 そこに、県外からの来訪が加わっている。2月13日深夜に福島県沖で発生した最大震度6強の地震の後は、多数の保険関係者らが被害状況の確認などで宮城県を訪れた。また、2月25、26日には東北大学の入試が行われている。2020年のデータでは、約8000人の入学志願者全体のうち宮城県内出身者は16%程度で、大半は県外からの受験だった。今年も多数の受験生が宮城県を訪れている。そして、先に述べた3.11だ。

■仙台は東北のハブ

 さらに、関東圏の緊急事態宣言が解除されることで、県外に住む子や孫が宮城県行きを計画するケースも増えているという。

「仙台は人口が密集していてウイルスが広まりやすい環境です。さらに、仙台はハブになっていて、ここから県内各地、東北各地へ人が移動していく。今のところ感染者の大半は仙台で確認されていますが、これから地方でもさらに広がっていくのではと懸念しています」(小坂教授)

 18日に宮城県と仙台市が発出した緊急事態宣言では、当初は飲食店の時短要請などは盛り込まなかったものの、21日になって、仙台市内の飲食店に対して25日から再び時短営業を要請することを決めた。

 小坂教授は、県と市が一体となってメッセージを発したことには一定の効果があるとしつつ、懸念を深める。

「仙台市では、既に濃厚接触者の追跡調査が追い付かない状況もあるようです。『このケースがなぜ検査されていないんだ』という例や、『保健所からの連絡待ちでいつ検査を受けられるかわからない』という例をいくつも見聞きしている。保健所の機能を充実させて、感染経路をつぶしていくことにまず注力しなければなりません。今回の緊急事態宣言ではその点が強調されず、焦点がぼやけています」

■具体的な指針が望まれる

 村井知事は17日、国に濃厚接触者調査やPCR検査を担う保健師の派遣を要請したことを明らかにした。ただ、関係者からは「医療・福祉分野の問題とされ、県庁一丸で取り組む姿勢が見えない」との指摘もある。

 さらに、大半の人はすでに十分に対策を取っている、として、小坂教授はこう続ける。

「多くの人にとって、『これ以上何をすれば……』という状況です。気にしすぎる人は日常の買い物にも出づらくなる一方、気にしない人にはメッセージだけでは響かない。例えばどうしても飲食店を訪れる場合はいつも一緒に過ごしている人4人以内で、とか、既に販売した食事券を使う際にはメールアドレスを登録して万一の際に追跡できるようにするとか、明確で具体的な指針を示すべきでした」

 25日には、東北大学で2000人規模の卒業式が行われる予定だ。この1年間大学生活を満喫できなかった学生たちが、最後は直接顔を合わせ笑顔で卒業できるように、これ以上の感染拡大は何としても食い止めたい。(編集部・川口 穣)

※東北大学は21日夜、卒業式について式典会場への出席は、各総代及び学生表彰者のみに縮小して実施すると発表した

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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