これでは、子供じゃないか。

 曲を特徴づけるのは、なにより「うっせぇ」の連呼。その感情を、他者にも、自分にも、説明しない。自分を、世界から遮断する。パチン。OFF。

■人間は機械に近づく

 自分と世界/他者の遮断は、21世紀を特徴づける社会現象だ。

 テクノロジーの発達は、機械をどんどん人間に近づけている。AI(人工知能)の驚異的な高度化は、じつは、機械が「他者」を受け入れているからだ。将棋や囲碁でトップ棋士をAIが打ち負かすほどの強さになったのは、AIが、他者(他のAI)と戦い、知見を寄せ集め、自己対局を繰り返し自分を磨くから。そうした相互干渉の結果、人間に近づいてきている。人間らしい思考の揺れ、表現の幅を学んでいる。

 反対に、人間は機械に近づいている。インターネットのコンシェルジュに聞けば、答えられない疑問はない。スマホに登録してある電話番号、五つ以上覚えている人、いるか? カーナビの出現で、地図を「読める」人はもうすぐ絶滅する。運転さえ人間がすることはなくなるだろう。

 記憶や思考、空間認識能力を機械にアウトソーシングする。他者を受け入れるどころか、インターネットさえあえば、自分だけの世界観、自分だけの“正解”を持ち続けることは可能だ。

■誤解も誤読もない

「うっせぇ」と他者を切断する。その感情を、ただ、口にする。いわば「一次感情」のダダ漏れ。

 思えば似たような一次感情ソングは、平成末期からずいぶん増えたのだ。3人組男性ユニット「ソナーポケット」のアルバム収録曲「遠恋だけど逢えない時間もアイシテル。」(2011年)のサビは「逢いたい。逢えない。つらい。寂しい。逢いたい。笑い合いたい。ギュッとしたい。」

 西野カナ「Best Friend」(10年)は「ありがとう君がいてくれて本当よかったよ」「私たちBest Friend 好きだよ 大好きだよ」。

 昨年紅白歌合戦にも出場した瑛人の「香水」は、「君をまた好きになるくらい君は素敵な人だよ」。

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