“打ちのめしてくれる雨にでくわしたい/泣かせてくれる風に巻き込まれたい/それが逃避の旅であれ、解放の旅であれ/僕は靴を履き、窓から這い出さなければならない”(佐野による詩「旅に出る理由」)。

 去年の秋、40周年を記念して発表された2セット5枚組ボックスセットには、ロックンロールをベースに詩と音楽の可能性を拡げようといかに心砕いてきたか、彼の歴史と軌跡が鮮やかに刻まれている。そのブックレットの巻頭に、祝辞を送らせていただいたが、彼が多感な15の春の旅立ちに履いたのは、片方はロックンロール・シューズ、もう片方はビート・ポエトリーの靴だったのだ。

 85年アフリカ飢饉救済の国際的イベント、あのライブエイドに日本から矢沢永吉、オフコース、長渕剛らと参加した彼は、不満をつのらせる。「もっと愛を語るように、社会や政治の問題についても僕らは普通に語れるようにならなくちゃいけない」。ビート作家ジャック・ケルアックの墓に詣で、社会問題にも積極的にコミットした“吠える”詩人、アレン・ギンズバーグにもインタビュー。ビート世代の潮流を継承するように、スポークン・ワーズを、カセットブックで発表し、詩人マイケル・マクルアやザ・ドアーズのレイ・マンザレクらを招くなど早くから数々のポエトリー・イベントを主宰。最近では最前衛の映像作家たちとコラボして、世界でもワン&オンリーのスポークン・ワーズ・イベントを継続して催している。

 ラジオ、雑誌、TV、インターネット等新旧のメディアを自在にクロスオーバーし、シンガーソングライター、ミュージシャンという括りではもはや語り切れない、ポップな賢人“MOTO”。いや、ひるがえって見れば、“音楽やコミックや色々なストリートが境界線を越え出した時代”である80年代に疾走を始めたのだから、それも必然だったのかもしれない。

 2015年には沖縄の辺野古へ旅し、闇の時代を操る人々へ刃をつきつけるような、境界線越えのアルバム「BLOOD MOON」を発表。アルバム所収の「キャビアとキャピタリズム」は知の巨人、詩人の吉本隆明氏に捧げられた曲。2017年発表のコヨーテ・バンドとのアルバム「MANUJU」には“壊れた現実は自由の旋律”と、文字どおり戦慄すべき啓示的一行もある。

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くよくよしたって、なにも始まらない