8歳で小説を書き始めてから29歳の現在まで、一時も筆を休めたことがない(撮影/掛祥葉子)
8歳で小説を書き始めてから29歳の現在まで、一時も筆を休めたことがない(撮影/掛祥葉子)
作品のカバー挿画を手掛けるイラストレーター名司生(なつき)の個展で。「ボローニャ国際絵本原画展」に入選したこともある名司生の挿画は、自分の世界観を巧みに描き出してくれると信頼を寄せる(撮影/掛祥葉子)
作品のカバー挿画を手掛けるイラストレーター名司生(なつき)の個展で。「ボローニャ国際絵本原画展」に入選したこともある名司生の挿画は、自分の世界観を巧みに描き出してくれると信頼を寄せる(撮影/掛祥葉子)

 作家、阿部智里。2012年、『烏に単は似合わない』で、阿部智里は松本清張賞を受賞した。史上最年少の20歳での快挙だった。「八咫烏シリーズ」は累積155万部のベストセラー。阿部の描く世界は、和風ファンタジーとしてファンに支持される。子どものころから、想像力豊かだった。今でも、その空想は健在。登場人物と脳内会議をしながら、作品を描き出す。

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 高校生の娘を持つ友人からこんな話を聞いた。娘が風呂に入ろうと服を脱いだところ、近くにあった本に気づき手に取った。すると娘はあられもない姿で立ったまま、微動だにせず読み耽っている。数時間後、パタンと本を閉じると愉悦の笑みを浮かべ、バスルームに向かった。友人は半ば呆れながらその本を手にしてみると、阿部智里著「八咫烏(やたがらす)シリーズ」の一冊だったという。

 思春期の女性から羞恥心を奪い、寒さを感じさせないほど夢中にさせるストーリーテラーの阿部智里(あべちさと)(29)とはどんな人物なのか。俄然興味が湧く。

 目の前に座る女性は、どこかまだ少女の面影を残し、ティーカップを握る手は子どものように小さい。だが一旦口火を切るとマシンガントークが始まった。講談師のような口調の滑らかさで、自身にボケとツッコミを交えながら相手を飽きさせない。彼女の頭の中には、文字だけでは表現しきれないほどの話の泉があることを感じさせた。

 2012年、『烏に単(ひとえ)は似合わない』で史上最年少の20歳で松本清張賞を受賞した阿部智里。受賞作を第1巻とする「八咫烏シリーズ」を年に1作ずつ発表し、6巻で構成される第一部は17年に完結。『楽園の烏』を20年9月に上梓し、八咫烏シリーズの第二部が開始した。外伝などを含めたシリーズ全8冊の累積部数は、21年2月現在で155万部を記録(文藝春秋調べ)。

 文芸書が読まれなくなったと言われ久しい。10万部を超えればベストセラーといわれるが、20年に発行された文芸書で10万部を超えたのは『少年と犬』(馳星周著)、『半沢直樹 アルルカンと道化師』(池井戸潤著)など10作ほど。阿部の作品がどれだけ人気を得ているのかが分かる。

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