会見で笑顔をみせる田中将大投手。「決して腰掛けではない。日本一になる」と力を込め、東京五輪で「金メダルを取りたい」とも/1月30日、都内 (c)朝日新聞社
会見で笑顔をみせる田中将大投手。「決して腰掛けではない。日本一になる」と力を込め、東京五輪で「金メダルを取りたい」とも/1月30日、都内 (c)朝日新聞社

 日本のエース田中将大が大リーグ・ヤンキースから8年ぶりに楽天に帰ってくる。被災地復興の象徴から、コロナ禍にあえぐ日本の太陽へ。期待は最高潮だ。AERA 2021年2月15日号の記事を紹介する。

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「また皆さんの前で投げられる。ワクワクが抑えられない状態」

 メジャーリーグのヤンキースから8年ぶりに楽天に復帰した田中将大選手(32)は、1月30日の入団会見でこう話した。

 2年契約で、背番号は以前と同じ「18」。2013年には24勝0敗という驚異的な記録で楽天初優勝に貢献したスーパーエースが帰ってくる。高揚する気持ちは、ファンも同じだ。

 宮城県出身の東京都内の女性(58)は、「初優勝は私にとって夢のような『事件』でした。マー君はその象徴。嬉しい」と話す。仙台市内の書店に勤務する楽天の大ファンだという60代の女性も「地元は大盛り上がり。いまはどこに行ってもまず、マー君と楽天の話から始まります。心から応援したい」と興奮を隠せない。

■言行一致で物語を体現

 コロナ禍で客足が鈍り苦戦する商業施設も、田中選手の復帰に熱い視線を送る。仙台駅前にある「仙台パルコ」の広報担当者は、「震災から10年の節目。田中選手が被災地をずっと気にかけてくれていたことも嬉しい。コロナの状況次第ですが、たとえば楽天の選手の方とパルコのお客様が触れあえるようなイベントの機会が作れたら」。

 それにしてもなぜ、一野球選手の復帰にここまで熱い思いがあふれているのか。

「あんなに海外で活躍しているのにホーム(故郷)に帰って来てくれた、という『物語』に呼応しているのでは」

 こう話すのは奈良教育大学教授でスポーツ社会学が専門の高橋豪仁さん(58)だ。スポーツとは、非日常の世界。でも私たちは日常生活の延長線上に「社会を映す鏡」としてそれを見ているという。

「そのときに非日常と日常をうまく結びつけるのが『物語』なんです。東日本大震災の2年後に、楽天が念願の初優勝。そうすると『なかなか復興が進まないけど、楽天が優勝したように、やがて私たちの暮らしも良くなるのでは』というような物語を私たちはそこに見る」

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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