だが、役づくりでもっとも助けになったのは「綾野さんの存在だった」と話す。

「綾野さんが普段からケン兄のような目で弟を見るかのように接してくださったことで、徐々に翼が出来上がっていきました。今回綾野さんから、ただただ役として生きることが大切なんだということを学びました。綾野さんが翼に残したいモノとして、『存在することの大切さ』とおっしゃっていたんですが、確実にそれをいただいたと思います」

 その言葉を象徴する、希望あるラストシーンは必見だ。

「タイトルにヤクザとつきますが、家族にテーマを置いた人間に寄り添った映画なので、楽しめると思います。家族とは、愛とは、人々の絆とは、ということを再確認できるし見どころとなっています」

◎「ヤクザと家族 The Family」
気鋭の制作会社スターサンズと藤井道人監督が仕掛ける最新作。1月29日から全国公開

■もう1本おすすめDVD「仁義なき戦い <“東映 ザ・定番”シリーズ>」

 ヤクザ映画といえば、金字塔「仁義なき戦い」は外せない。広島で実際にあった暴力団抗争を描いた実録モノで、1973年に公開されて大ヒット。シリーズ全5作が作られた。

 敗戦直後の広島県呉市。復員兵の広能昌三(菅原文太)は、闇市で仲間のけんかに手を貸し、殺人を犯して刑務所に入る。出所後、山守(金子信雄)が組長となる山守組の一員になるが、山守から頼まれ敵対する土居組組長(名和宏)を殺害。広能も命を狙われ、生き延びるために刑務所へ戻ることに……。

 初めて本作を見たのは20代の頃。血生臭い映画は苦手ながら、菅原文太の一本筋の通った生き方や、殺るか殺られるかの世界で一旗揚げようとする男たちの姿に胸が熱くなった。

 戦後の昭和史として見ても面白い本シリーズ。高度成長期に突き進む当時の日本と、コロナ禍でますます所得格差が広がっている今とでは、経済のベクトルは真逆だが、弱者が痛めつけられ踏みにじられることには変わりがない。私利私欲にまみれた山守組長の、計算高くて狡猾な、人間の浅ましさを久しぶりに見ていたら、今の政治家たちの顔が浮かんでは消えていった。

◎「仁義なき戦い <“東映 ザ・定番”シリーズ>」
発売元:東映ビデオ 販売元:東映
価格2800円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2021年2月1日号