「愛を読むひと」(2008年)で一躍有名になったのは18歳のとき。ケイト・ウィンスレット演じる年上の女性に惹かれ、逢瀬を繰り返す純朴な若者を繊細に演じた。あれもまたナチスドイツの爪痕を描いた物語だった。

「もうずいぶん前のことに感じるけど、いまだにあの経験から学んでいる気がしている。役者という仕事は作品によって注目されたり、そうでなかったりと波がある。そのことに慣れるのに時間がかかったけれど、いまはすべてうまくいっている。すごく“ハッピー”だと言っておくよ(笑)」

◎「キーパー ある兵士の奇跡」
イギリスの国民的英雄となったサッカー選手バート・トラウトマン(1923−2013)を描く。公開中

■もう1本おすすめDVD「サラの鍵」

 なぜナチスドイツ時代を背景にした作品が多く描かれ続けるのか。爆撃やホロコーストのつらい記憶だけでなく、極限のなかで立ち現れる人間の本質や心のありようが生々しく刻まれているからだ。ゆえに我々の心を揺さぶる名作も数多い。「サラの鍵」(2010年)はその筆頭だと思う。

 1942年のパリ。警察によるユダヤ人一斉検挙が行われたその日、10歳のサラは両親と収容所に連行される。が、彼女には決して言えない秘密があった。納戸に弟を隠して、鍵をかけてきたのだ。「すぐに戻る」と約束して……。

 そして2009年のパリ。ジャーナリストのジュリアは当時の記事を書くうちに、サラの物語を知る。実はそれは自分にとっても無関係ではない出来事だった──。

 本作のうまいところは、現代を生きるジュリアに比重を置き、彼女の日常や悩みなどを盛り込みながら42年の事件へと時代を交差させたところ。サラは、その弟はどんな運命を辿ったのか? 観客はジュリアとともに謎を解いていく。結果、あらゆる過去がいまを生きる自分と地続きにあること、また人間としてどうあるべきか、ということを改めてズシンと考えさせるのだ。

◎「サラの鍵」
発売・販売元:ギャガ
価格1143円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・中村千晶)

AERA 2020年11月2日号