David Kross/1990年、ドイツ・ヘンシュテット=ウルツブルク生まれ。テレビや舞台での活躍を経て2006年に映画デビュー。スティーヴン・ダルドリー監督の「愛を読むひと」(08年)で高く評価され、カンヌ国際映画祭で有望な若手俳優に贈られるショパール・トロフィーやベルリン国際映画祭のシューティング・スター賞を受賞。スティーヴン・スピルバーグ監督の「戦火の馬」(11年)ほか、「栄光のランナー/1936ベルリン」(16年)、「バルーン 奇蹟の脱出飛行」(18年)、「ライジング・ハイ」(20年)などに出演(写真:Jeanne Degraa)
David Kross/1990年、ドイツ・ヘンシュテット=ウルツブルク生まれ。テレビや舞台での活躍を経て2006年に映画デビュー。スティーヴン・ダルドリー監督の「愛を読むひと」(08年)で高く評価され、カンヌ国際映画祭で有望な若手俳優に贈られるショパール・トロフィーやベルリン国際映画祭のシューティング・スター賞を受賞。スティーヴン・スピルバーグ監督の「戦火の馬」(11年)ほか、「栄光のランナー/1936ベルリン」(16年)、「バルーン 奇蹟の脱出飛行」(18年)、「ライジング・ハイ」(20年)などに出演(写真:Jeanne Degraa)
「キーパー ある兵士の奇跡」/イギリスの国民的英雄となったサッカー選手バート・トラウトマン(1923-2013)を描く。公開中 (c)2018 Lieblingsfilm & Zephyr Films Trautmann
「キーパー ある兵士の奇跡」/イギリスの国民的英雄となったサッカー選手バート・トラウトマン(1923-2013)を描く。公開中 (c)2018 Lieblingsfilm & Zephyr Films Trautmann
「サラの鍵」/発売・販売元:ギャガ、価格1143円+税/DVD発売中 (c)2010 - Hugo Productions - Studio 37 - TF1 Droits Audiovisuel - France2 Cin〓ma
「サラの鍵」/発売・販売元:ギャガ、価格1143円+税/DVD発売中 (c)2010 - Hugo Productions - Studio 37 - TF1 Droits Audiovisuel - France2 Cin〓ma

 AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。

【映画「キーパー ある兵士の奇跡」の場面カットはこちら】

*  *  *

 1945年、終戦で捕虜となったナチス兵士がイギリスの名門サッカークラブに入団し、イギリスの国民的英雄になっていく──そんな奇跡のような実話の映画化で、デヴィッド・クロス(30)は主人公バート・トラウトマンを演じた。

「子ども時代はサッカーに夢中だった。それなのにトラウトマンについてまったく知らなかったんだ。そのことにまず驚いたし、脚本を読んでぜひ演じたいと思った。『作り話じゃない?』と思うような映画的な瞬間が、彼には本当に起きたことなんだ」

 トラウトマンは捕虜収容所を訪れた地元サッカーチームのコーチにゴールキーパーの才能を見いだされ、地元チームで活躍する。やがてコーチの娘と恋に落ち、結婚。さらに名門クラブから声がかかるが、ドイツ兵に家族や恋人を殺されたイギリスの人々は、彼を素直に受け入れない。

「戦時中、トラウトマンは冷酷な兵士として教育され、間違ったイデオロギーに基づいて戦っていた。でも、自分が戦争犯罪を起こした政権の一部だったことに気づいて変わっていく。彼は個人として、また国としての罪悪感に向き合っていた。僕もそれをしっかり考えて演じる必要があった」

 トラウトマンの挑戦に対する人々の反応は、「憎悪の感情を超えて人は人を赦せるのか」という問いを観客に投げかけ、ヘイトと分断の現代に強烈なメッセージを伝えてくる。

「まさにこの映画が伝えようとしているのは、先入観や偏見で人をジャッジせずに個人をしっかり捉えるべきだ、ということだ。特にいまの時代に非常に重要なことだよね。偏見をいかに乗り越えるか、同じ人間同士が分断ではなくひとつになることのほうがいかに強く大切なことかを、きっと気づかせてくれると思う」

 本作は彼を決してヒーローとして描いていない。恋に悩み、未来に悩む若者の自然なたたずまいが、観る人の心を引きつける。

「資料を通じてトラウトマンが常に“光”を持っている人だったと知ったんだ。スポーツマンらしい荒々しさもあるけれど、紳士でもあった。そんな彼の温かさを表現しようと注意深く演技をした。ドイツのプレミア上映に彼のめいが来てくれて『叔父のエッセンスを見事につかんでくれました』と言ってくれた。なによりうれしい言葉だったよ」

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