竹中平蔵さんが大臣になったのはもう20年近く前、小泉純一郎政権の時だ。それから「勝ち組」「負け組」という言葉が当たり前になり、勝つ人はますます勝つ世の中になった。それは「お金」の話だったけれど、コロナでは加えてメンタルが問われている。お金の問題に直面していない人にも、じわじわと影響が出る。偶然が足りない。励ましが足りない。「よくいる小心者の一人」として、そう思う。

■「わざわざ」が取れない

 リモートワークは、会社よりストレスがない。そういう人は多い。会議もオンラインで済むならそれでよく、それこそ、新しい生活様式。わかっているが、割り切れない気持ちもある。その典型が、オンライン飲み会。あくまで個人的な気持ちだ。

 何回か参加したが、居心地が悪かった。「わざわざ、がんばって加わる」感じが苦手だった。なぜだろうかと振り返ると、共有する空気がないのだ。だから、「わざわざ」な感じが取れない。空気と偶然。コロナにその二つを奪われてしまった。

 だから、というわけではないが、近頃の私はしばしば出かけている。リアル飲み屋にも行く。小心者だがずうずうしいのだ。

 でも、真面目に外出を控えている人は、周りにたくさんいる。乳幼児を抱えている人などもそうだ。小さな子どもに感染させてはいけないと思えば、親子で家にいるのが一番になる。家にいることは防御になるが、自分で完結しなくてはならない。それにはタフさが必要で、そこがコロナのやるせなさだ。

 ふと出会う。ふと思う。「ふと」だけが連れてくるものが、確かにある。国から「Go Toトラベル」と背中を押されるのでなく、ふと思い立って出かけたい。「ふと」は、いつ、戻ってくるのだろう。(コラムニスト・矢部万紀子

AERA 2020年10月12日号

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矢部万紀子

矢部万紀子

矢部万紀子(やべまきこ)/1961年三重県生まれ/横浜育ち。コラムニスト。1983年朝日新聞社に入社、宇都宮支局、学芸部を経て「AERA」、経済部、「週刊朝日」に所属。週刊朝日で担当した松本人志著『遺書』『松本』がミリオンセラーに。「AERA」編集長代理、書籍編集部長をつとめ、2011年退社。同年シニア女性誌「いきいき(現「ハルメク」)」編集長に。2017年に(株)ハルメクを退社、フリーに。著書に『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』『美智子さまという奇跡』『雅子さまの笑顔』。

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