そう語るのは国循の西村邦宏予防医学・疫学情報部長だ。昨春の組織改編で、産学連携拠点の「OIC(オープンイノベーションセンター)」が設置されていたことも開発を後押しした。西村部長が続ける。

「結核患者対応などでN95は元々月に100枚は必要で、さらに医師と看護師だけで千人近くいるスタッフが、コロナ疑いで来られた患者さんに対応する場合はN95をつけなくてはならなくなった。2009年の新型インフルエンザの時に用意していたものが3千枚近く残っていたので最初はそれを引っ張り出してしのぎましたが、その後も購入できない状況が続きました」

 国循がニーズを元にコンセプトを立案し、OICに研究室を置くクロスエフェクトが3Dプリンティング技術を使って金型を作成、ダイキンがフィルター開発を行い、ニプロが製造管理と販売を担うという役割分担でチームが機能し、開発は順調だ。

「コンセプトと各パーツの性能は整ってきたので、あとは耐久性の試験や最終的な形状を煮詰める段階。年内に試作品から実証可能な少量生産を行って、安全水準を満たす品質を確保したところで当局と交渉し、来年の流行期の冬春に間に合うように大規模生産につなげたいですね」(西村部長)

 疲弊する現場の発想から生まれたマスクが、日本だけでなく世界の医療現場の救世主になる日が来るかもしれない。(編集部・大平誠)

AERA 2020年9月14日号より抜粋