柳川範之(やながわ・のりゆき)/1963年生まれ。2011年から東京大学大学院経済学研究科教授。専門は金融契約、法と経済学。著書に『東大教授が教える独学勉強法』 (c)朝日新聞社
柳川範之(やながわ・のりゆき)/1963年生まれ。2011年から東京大学大学院経済学研究科教授。専門は金融契約、法と経済学。著書に『東大教授が教える独学勉強法』 (c)朝日新聞社

 これまで日本の大学では入学は難しく、卒業は比較的容易というのが普通。だが、こうした慣例が、コロナを機に変わる可能性があるという。AERA 2020年8月31日号から、柳川範之・東京大学大学院教授が語る。

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 新型コロナウイルスの感染拡大により大学におけるオンライン授業が急速に広がったことで、入試のあり方も大きく変わる可能性があります。

 かねてから日本では卒業より入試偏重で、いったん入学すればよほどのことがない限り卒業できるため、在学中にどれだけ勉強したかはあまり問われませんでした。受験競争では、親の所得が高く教育お金をかけられる人が有利になり、機会の平等が失われる弊害もありました。

 しかし、オンライン授業が普及すると受講できる学生を入試によって絞り込む意味が薄れてきます。従来、入試を行う最大の理由は、教室で教えられる人数に限りがあったからですが、オンライン授業ではその制約がなくなります。

 究極的には入試をなくし、オンライン授業を希望者全員に公開することも可能です。そこで優秀な成績を収めた人は対面授業にも参加できるようにして、4年間かけて卒業資格を与えるに値する学生を選抜するというのも一案です。

「せっかく入試突破という目標に向けて頑張ってきたのに、その努力を無にするのか」と思う方もいるでしょうが、ゴールが入試ではなく卒業になるだけで、これまでの勉強が無駄になるわけでは決してありません。一発勝負、1点刻みの入試より4年間トータルの頑張りが評価されるほうが公平だとも言えるでしょう。

 実際、コロナ以前から米国の一部の大学ではそうした試みが始まっており、コロナ禍を機に世界中で広がる兆しもあります。もちろん、日本ですぐにでも入試をなくせというのは暴論です。教育制度を変えるのは人々の価値観が変わり、コンセンサスができてからの話。でも今こそ、議論を深めるチャンスです。

(構成/編集部・石臥薫子)

AERA 2020年8月31日号