「新型コロナは、確かに軽症から急に重症化するケースがあり、健康観察支援が求められています。電話やオンラインで開業医などをあて、診療報酬をつけてはどうか」

 国や自治体にしてほしいこととして、医師アンケートで得に多かったのが「金銭的補助・支援」だ。新型コロナ対応や受診控えによる減収に対し、対応を求める切実な声が寄せられた。

 だが、厳しい意見もある。

 都内の大学病院に所属する30代の男性勤務医は言う。

「大学から『収益を上げるために、積極的に患者を入院させろ』と言われています。本来は必要性の低い患者も、病床稼働率を上げるために積極的に入院させるよう指示されている。大学はコロナのせいにしているが、元の経営の問題だと思う」

 前出の上医師は、「患者をフル回転で受け入れているのに経営難という病院に配慮が必要」としたうえで、「患者が来ないのなら、医療機関が変わらなければならない」と話す。

 すでに起こっていたことが加速しただけ、と考えるのは、NPO法人医療制度研究会の本田宏副理事長(66)だ。

「もともと診療報酬は公定価格で、儲けを出しにくい構造でした。医療秘書や病棟クラークの業務が診療報酬にあまり反映されず、医師や看護師の人手不足や過重労働も問題になっていました。赤字ギリギリで現場を回していたところへ、新型コロナ感染拡大が起こり、限界が明らかになっただけのことです」

 大学病院から派遣され、クリニックで在宅医をする40代の男性は、「今までの医療に無駄があった証拠」と指摘する。

「外来待合室で長時間待って数分で診療するシステムは、高齢患者の社交の場としてはよかったかもしれないが、無駄が多すぎた。患者一人の診療報酬が少なく数をこなすしかなかった面もあるが、今後は必要な人に必要な医療を届けるオンライン診療や在宅医に可能性を感じます」

 医療崩壊を防ぐため、私たちにできることはあるのか。アンケートでは、「節度ある受診を」「嘘をつかないで」といったモラルを求める声や、「感染者を差別しないで」「落ち着いて」といった声も目立った。

「極端な情報に振り回されず、地道にできる感染対策をし、適切に受診し、診断されたら淡々と治療を完遂してほしい」

 そんな“当たりまえ”が求められている。(編集部・小長光哲郎、ライター・井上有紀子)

AERA 2020年8月24日号

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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