■娘まで陽性だったら

 夫が隔離先へ移動した日、女性と長女もPCR検査を受けた。結果は陰性。家庭内感染は防ぐことができた。

「対策がうまくいったからか、単なる運かはわかりません。ただ、もし何もせずに娘まで陽性になっていたらずっと後悔したと思います」(女性)

 そして、実際に濃厚接触者となったり、感染がわかったりする前に夫婦間で意識をすり合わせておくことが重要だと感じた。

「幸い夫とぎくしゃくすることはありませんでしたが、いきなり消毒だ、隔離だとなるとケンカになるかもしれません。実際、感染対策をSNSに投稿すると、“大げさだ”とか、“こんな家に帰りたくない”といったコメントが多数付きました。感染したらどうするか、家族で話し合っておくといいと思います」

 家庭内感染の拡大と同時に懸念されるのが、中高年への広がりだ。現在の流行では今のところ、若年層の感染が多数を占める。東京都内の感染者は7月中旬ごろまで、20~30代が7~8割を占める日が続いた。若年層は多くが無症状で、発症しても重症化しづらいこともあり、東京都の入院患者のうち「重症」とされるのは集計を始めた4月下旬の5分の1程度に収まっている。だが、7月中旬以降、中高年の感染もジワジワと増え始めた。このまま高齢者に感染が広がると、何が起きるのか。先出の久住医師はこう指摘する。

「いったん高齢者に広がれば、一気に重症者が増えて医療はあっという間に逼迫します。お盆の帰省や旅行でウイルスはさらに拡散されるはず。潜伏期間が2週間、発症から1週間程度で重症化する人が多いので、9月に入るころには全く違う状況になっているかもしれません」

■お盆休みに先駆け帰省

 8月に入り、危機感を抱いた各県の知事が相次いで帰省や旅行の是非を慎重に検討するよう求める声明を出した。

 だが、「時すでに遅し」の感もある。

 アエラでは、位置情報ビッグデータを扱うアグープからデータの提供を受け、観光地への人出をゴールデンウィークと7月の4連休で比較した。その結果、1日あたりの他県からの訪問者数は軽井沢で26倍、新千歳空港で28倍など各地で大きく増えていた。既に帰省した人もいる。東京都の会社員女性(33)は8月上旬、お盆休みに先駆けて山形県の実家に帰省した。

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