春菜:『星の王子さま』は読むたびに感情移入する登場人物が違ったり、理解のレイヤーが違ったりします。だからその時ストレスなく読めて、「本を読むのって楽しい」と思える本から始めるべきなんですね。だからほんとに最初は児童文学、どんな年齢の大人になっていたとしても児童文学でいいんです。

──お二人ともストーリーをよく覚えていますね。対話がそのまま読書案内になっている。

春菜:忘れたいんですよ。忘れたらまたゼロから読み直せる。3割忘れたかな?というあたりで再読している気がします。

夏樹:ぼくはほんとに好きなものは数年に一度読みます。例えばスタンダールの『パルムの僧院』。職業柄からか、ストーリー全体より場面やエピソードの記憶が強いですね。その代わり、昨日会った編集者の顔も覚えてない(笑)。

──春菜さんに「本を読みなさい」と言ったことはない?

夏樹:ないです。だってもう読んでるんだもん。

春菜:物心ついてからは、読んでない時なんてなかったです。「最初に読んだ本覚えてますか?」という質問は、私にとっては「最初に口にした離乳食覚えてますか?」という質問と同じ。覚えてるわけがない。

夏樹:この子が読んでなかったら「病気かな?」と思わないといけない(笑)。

──小学校卒業までに、図書館の本をほぼ全部読まれたと。それくらいの勢いという比喩では聞いたことがありますが、本当に全部読んだ人は初めてお目にかかります(笑)。

春菜:朝まず学校に行ったら、借りていた本を返し、また3冊借ります。3冊が上限で、それは学校にいるあいだに読んじゃいます。放課後にそれを返して、下校時にまた借ります。
──えっ。では授業中に……。

春菜:すべての時間を使って、です。たぶん、現実がいやだったんでしょうね。学校になじめないし、あたりまえだけどクラスメートと話が通じません。だからパパの周りの大人だと普通に話せてとてもラクでした。

(構成/ライター・北條一浩)

AERA 2020年7月27日号より抜粋