教育とは違う。あいだに「本」という歓びの泉を置くことで、父と娘はたちまち「相棒」になった。好きな本のことを語りつくした本を刊行したばかりの2人が、あらためて本についてのあれこれを語り合う。AERA 2020年7月27日号に掲載した、作家で詩人の池澤夏樹さんと、その娘で声優・歌手、エッセイストの池澤春菜さんの対談を紹介する。
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──『ぜんぶ本の話』(毎日新聞出版)、すがすがしいほどの偏りといいますか、出てくる本の大半が翻訳もの、つまり海外作品ですね。
池澤夏樹:基本的に日本嫌いですから。ぼくは特に私小説がダメです。ぐずぐずと言い訳がましく、しかも露悪的。
池澤春菜:わたくしも。
夏樹:日本の本はウェットなものが多かったし、今自分がいる所から遠い話のほうがおもしろいじゃないですか。日本の作家でスティーブンソンの『宝島』みたいな小説書いた人、いないでしょう?
春菜:特に現代のものだと、日本語で書かれた等身大の恋愛小説なんか読んでると、ピタッと頬にくっついてこられるように感じてしまうんです。こんなに電車空いてるのに、なぜわざわざ隣に座るの?というような。私は知らない世界が読みたいんです。自分がいま生きている所から隔絶されたもの。
──教科書的に網羅するのでなく、児童文学と少年小説、SFで全体の7割を占めることだけでも、好きな本のことだけを語っているのがわかります。
夏樹:子ども向けの本にはファンタジーめいたものがいっぱいあって、そこをもう一歩前に踏み出せばSFになります。
春菜:私も児童文学の次のステップがSFでした。昔はSFのジュブナイルや少年少女全集が出てましたが、私は世代的に少し間に合わなくて、読んだのはほとんど大人向けです。早川、創元、サンリオあたり。
夏樹:「子どもに本を読ませる時にどうしたらいいでしょう?」ってよく聞かれます。「与えて放っておきなさい」と。「最後まで読むのよ」と言わなくていい。自分に合わないと思ったらやめればいいし、子どもは途中まで読んだことはけっこう覚えているものです。あとになって戻って読んで、今度は理解できたりする。『星の王子さま』が良い例で、あれ実はけっこう難しい。