堀:日本で最初の発症事例は、警戒していた空港などの水際ではなく、海外渡航歴のない高校生でした。NHKのリポーターだった僕は、初期症状が想定より軽いからこんな事態になったのではと考え、発症者の父親に取材したんです。案の定、熱は37度前後で食欲もあり、風邪と変わらないと思っていたことがわかりました。

 そのため、今回も初期症状を明らかにすることを目指しましたし、新型インフルエンザ以降の、感染症への取り組みを振り返るよう呼びかけました。

西田:堀さんならではの視点ですね。新型インフルエンザと新型コロナの対処方針と対策がよく似ている点などを、全国での感染蔓延当時、思い起こさせてくれるメディアはほとんどなかったという印象です。学校休業も自粛の要請も、実は09年に実施されていますが、さも新しくて初めてのことかのように語られました。当時と今回のコロナ禍が比較されれば、受け手も納得しやすかったように思います。

堀:納得について言うと、政府や自治体、首長に対する国民の不信感が根底にありますよね。11年の原発事故以来、国が「安全です」と発表しても、額面通りに受け取れなくなった。今回も「発表された感染者数は実際とは違って、自分たちはだまされている」と思ってしまう不幸な構図ができました。

 テレビを見ていると、PCR検査の体制や緊急事態宣言の判断は妥当か否か、といった議論ばかり。メディアも大きな主語で不安の醸成に終始していた。

西田:こうした状況下でのリスクコミュニケーションやクライシスコミュニケーションの必要性は、新型インフルエンザの流行に関する政府総括ですでに指摘されています。さらに今回、WHOが1月の終わりから「SNSを中心としたリスクコミュニケーション、クライシスコミュニケーションに配慮しなければならない」と警鐘を鳴らしていた。にもかかわらず、日本では十分に配慮されないまま、SNSはあと回しにされました。テレビと新聞を中心にした従来同様の広報やコミュニケーションが行われたという印象が拭えないですね。

(構成/ライター・三浦ゆえ)

AERA 2020年7月27日号より抜粋