主演を務めたソン・ガンホさんは「シュリ」など多数のヒット作に出演し、いまや韓国映画の「顔」ともいえる実力派俳優だ。ポン監督作品はこれで4作目の出演。ソンさんはじめキャスト陣10人は今回、権威ある全米映画俳優組合のスクリーン・アクターズ・ギルド・アワードの「キャスト賞」も受賞した。これも非英語映画で初だ。

 ソンさんが力強く言う。

「出演者はみな才能がある素晴らしい俳優ですが、そのアンサンブルを引き出してくれたのはポン監督の演出のおかげです。監督が適材適所で才能を引き出してくれました」

 笑顔を見せながら、ときに大きな声でインタビューに答える2人。そのキャスト賞受賞の大きな意義として口をそろえたのは、言葉を超える表現力の高さだった。そこに強さの“源流”が見えた。

「非英語圏の映画が初の作品賞を取ったということ以上に、このキャスト賞には意味があります。その映画にクリエイティブな力があり、誰もが共感できる内容で独創性があれば、いつでも全世界の観客は言語と国境を超えることができることを証明しました」(ソンさん)

「この賞は特別大きな意味があると思います。言葉の壁、字幕の壁を越えていく役割は、俳優によってなしとげられたということを立証しています。俳優によって醸し出されるさまざまな喜怒哀楽の感情、顔を通じて表現されるいろいろな表情は、まさに万国共通語です」(ポン監督)

 韓国映画の成長の理由はどこにあるのか。『韓国映画100選』の訳書もあるライター・翻訳者の桑畑優香さんはこう語る。

「金大中(キムデジュン)大統領が就任した時に、『1台の車を売るよりも1本の映画を売ろう』というスローガンがありました」

 1997年、韓国は通貨危機に見舞われ国際通貨基金(IMF)の支援を仰ぐこととなった。そんな危機の最中、98年に就任した金大統領は「文化大統領宣言」を打ち出し、コンテンツ産業育成のための法整備や支援体制の整備に取り組んだ。99年に文化産業振興基本法を制定、約500億円を投入するコンテンツ振興ファンドも設立した。90年代から韓国映画を配給し、「シュリ」「JSA」などをヒットさせた映画プロデューサーの李鳳宇さんは、こう語る。

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