そこで法務省が2009年4月から、対象者が出所と同時に切れ目なく福祉支援が受けられるよう始めたのが「特別調整」だ。刑務所や少年院などの矯正施設、保護観察所や地域生活定着支援センターなどが連携し、出所後の受け入れ先の斡旋(あっせん)や福祉申請の支援などの手続きを進める。昨年7月に起きた京都アニメーション放火殺人事件の容疑者も、8年前に強盗事件を起こして服役した際、特別調整の対象になっていたという。

 冒頭の男性も、特別調整のおかげで、再び柴崎さんとつながることができた。現在、ボールペンの組み立てや箱作りなどの内職作業のほか、所内の清掃などを買って出る毎日だ。

 では、この支援の対象者はどうやって決めるのか。都道府県ごとに異なる部分はあるが、東京都の府中刑務所の場合、入所段階での調査で、候補者をリストアップすることから始まる。

 府中刑務所に入所しているのは約1800人。65歳以上の高齢者が約20%だ。出所後の帰住先がないと思われるのは高齢者約190人を含む、約400人。この候補者のうち、刑期終了日から逆算して6~10カ月程度の人に対し、面接を通して特別調整の内容を説明し、受けるかどうかの意思を確認、絞り込んでいく。大きな役割を果たすのが、全国の刑務所内に14年から常勤で配置されている福祉専門官(社会福祉士)だ。府中刑務所で同年から福祉専門官を務める桑原行恵さん(37)はこう話す。

「まず、出所後あなたはどうしたいのかを確認しながら、『そこに誰かのお手伝いがあったら、どうかな?』と話していきます」

 中には特別調整の話を断ろうとする受刑者もいるという。

「受刑者には人に頼ることが苦手な人が多いです。かといって押しつけてしまうと『本当は望んでなかった』となり、出所後に外の方にご迷惑をかけてしまうので、そこは悩ましいですね」

 対象候補者が選ばれると月に1回、所内で「選定会議」が開かれる。出席するのは刑務所、保護観察所、東京都地域生活定着支援センター、その委託元である東京都の職員。対象者が決まると、本人からはあらためて同意書を徴収し、保護観察所が「認定通知」を出し、出所後に向けて調整が始まる。

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