施設に昨年8月から通う男性は、窓を拭き、排水溝を掃除し、庭の木を剪定し、壊れた所を修理する。体を動かすことが好きな彼が自主的に行う仕事だ(撮影/写真部・小山幸佑)
施設に昨年8月から通う男性は、窓を拭き、排水溝を掃除し、庭の木を剪定し、壊れた所を修理する。体を動かすことが好きな彼が自主的に行う仕事だ(撮影/写真部・小山幸佑)
AERA 2020年2月10日号より
AERA 2020年2月10日号より
AERA 2020年2月10日号より
AERA 2020年2月10日号より

 出所後に住むところもなく、万引きして再び刑務所に舞い戻る。こうした「累犯」を減らすため、受け入れ先を探し、受刑者とつなぐ「特別調整」が始まって10年。再犯を防ぐ一歩となる取り組みとは、どのようなものなのか。AERA2020年2月10日号は、その現場に迫った。

【グラフで見る】高齢受刑者はどんな犯罪を犯しているの?

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「面会に来てくれて、『戻る気はあるか』と言われたときはうれしくてね。さんざん迷惑をかけたのに、また受け入れてくれる。ありがたいことだなと……」

 こみ上げる思いをこらえるように話す、73歳の男性。ここは神奈川県にある、刑務所から出所した人の生活を支援する更生保護施設「横浜力行舎(りっこうしゃ)」だ。

 男性は常習累犯窃盗の罪で名古屋刑務所に入り、約2年半で仮釈放された。昨年2月20日、出所と同時に神奈川に移り、8月からはグループホームで生活しながら、近くにあるこの施設に平日は毎日、通っている。

 実は男性は以前も、ここにいたことがあった。35歳のときに窃盗で逮捕されたのを皮切りに計9回、同じ罪で刑務所に入った。8回目のとき府中刑務所に入り、仮釈放後この施設へ。しかし、また万引きをしてしまう。

「もうここの敷居をまたぐわけにはいかないと、施設を飛び出し、あてもなく名古屋に行きました。そこでお金に困り、また窃盗で捕まりました」

 そこに再び支援の手を差し伸べたのが、横浜力行舎の施設長、柴崎真澄さん(45)だった。躊躇(ちゅうちょ)はなかったのだろうか。

「彼以外にも、罪を繰り返して『再会』してしまう人はいます。落胆しますし、『なにをやってるんだ』と厳しい言葉をかけることもあります。ただ彼は、前回うちの施設にいたときは11カ月で再犯してしまいましたが、今回は再犯せずにもうすぐ丸一年が経とうとしています。一日一日、反省の思いを持ちながら毎日通所することが、再犯防止のための息の長い支援になると考えています」(柴崎さん)

 もともと65歳以上の高齢な受刑者の中には、出所後に住むところもなく、支援が必要な状況にあるはずなのに、その体制が確保されないまま出所し、すぐ刑務所に舞い戻ることを繰り返す「累犯」が多いことが課題になっていた。多くは窃盗などの犯罪だ。

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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