琉球大学・早稲田大学名誉教授で沖縄政治に詳しい江上能義氏(73)は、キャラバンについて「沖縄の現実を全国に伝えようとするもので、大田県政の『沖縄からのメッセージ』と本質的には同じ」と指摘する。

「沖縄からのメッセージ」は96~98年に46都道府県、米国主要都市5カ所で開催し、基地問題解決への支援を呼び掛けた。琉球舞踊など沖縄独特の文化も紹介し、反響を呼んだ。

 当時、琉球大学教授の江上氏も講師として参加したという。

「大田知事と意見が一致するブレーンが全国で講演しました。当時は公明党が県政与党だったため、私は創価学会の知人に頼まれ、東京と愛媛で講演しましたが、『政治的』との批判はまったく聞かれませんでした」

 この事業は、95年の少女暴行事件を契機に、沖縄の基地被害に全国の関心が集まった時期と重なる。だが、この事件以前には沖縄の世論も大きく異なっていた、と江上氏は振り返る。

 NHKが沖縄県民を対象に実施している意識調査によると、復帰5年後の77年の調査で日本に復帰して「非常によかった」「まあよかった」が40%だったのに対し、「非常に不満である」「あまりよくなかった」は55%と上回っていた。これが82年以降は逆転し、92年には肯定的評価が81%、否定的評価は11%にとどまった。江上氏は言う。

「私が琉球大学に就職した77年当時は反基地運動が活発でしたが、国の振興策でインフラ整備などが進むにつれ、学生たちの基地問題への関心も徐々に薄れていきました」

 92年に首里城の正殿などが復元されると、「革新系」の大田知事もカチャーシーを踊って喜んだ。これを見て江上氏は「沖縄の人は基地と共存して本土と一緒にやっていくことを応諾している」と感じたという。だがそれは誤認だった。小学生女児が犠牲になった95年の事件を受け、沖縄の「怒りのマグマ」が噴出するのを目の当たりにし、江上氏は驚愕(きょうがく)したという。

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