


AERAで連載中の「いま観るシネマ」では、毎週、数多く公開されている映画の中から、いま観ておくべき作品の舞台裏を監督や演者に直接インタビューして紹介。「もう1本 おすすめDVD」では、あわせて観て欲しい1本をセレクトしています。
【写真】映画「冬時間のパリ」の場面写真と「もう1本おすすめDVD」はこちら
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作家性の強い作品で知られるフランスのオリヴィエ・アサイヤス監督(64)が、長いキャリアで初めてとも言えるコメディーを撮った。「僕自身、台詞一つ一つを楽しみながら書いた」とアサイヤス監督が言う通り、「冬時間のパリ」は軽やかさが魅力の会話劇だ。
舞台は、フランスの出版業界。書籍編集者のアラン(ギョーム・カネ)はデジタル化の波にどう対応していくかに頭を悩ませている。アランが担当する冴えない作家のレオナールはじつはアランの妻セレナ(ジュリエット・ビノシュ)と秘密の関係を結んでいる。アランもまた、デジタル担当の女性と不倫関係にある。
紙媒体から電子書籍へ、という現代的なテーマと2組のカップルの恋愛模様が絶妙に絡み合いながら、物語は進む。一つの時代が終わり、新しい時代が始まる。その狭間の時代に惹かれたのはなぜか。アサイヤス監督は言う。
「世の中を観察していれば、必然的にそうしたものを描きたいと思うようになります。その場に留まり続けるものなど何一つなく、世界はどんどん変わっていく。芸術とは“変わりゆく世界”を映し出すものであり、映画とは、流れていく時間の一瞬、一瞬をつかみ取っていくようなものだと思うんです」
芸術家が紙の文化について語るときは懐古主義的になることも多いが、「冬時間のパリ」にはそれがない。アサイヤス監督は変わり続ける世界に好奇心を持って立ち向かっているように見える。
原題は「二重生活」。登場人物たちはみな、表向きとは別に、もう一つの生活がある。だが意外にも、そのもう一つの生き方があることで、人生がうまく回り始める。紙媒体と電子書籍も、対立するのではなく共存することで互いに良い影響を及ぼすことができるのかもしれない──。