「そう、一見相反するような事柄も、ともに歩むことはできる。そんなことを描きたいと思った。登場人物たちの恋愛模様は、社会的には『道徳に反している』と思われるもの。でも、素直でシンプルな気持ちなのかもしれない。『こんな感情があってもいいよね』という思いはあります」

 そして「政治などとは異なり、本来言ってはいけないようなことも言えてしまうのが芸術。芸術にはこうした“自由”があるべきだと思う」とアサイヤス監督は言う。

 作品に登場する女性たちの凛とした姿も印象的だ。セレナは、レオナールとの関係に後ろめたさを感じることもなく堂々と生きる。アランの不倫相手の女性も、次なる恋の相手を見つける。アサイヤス監督はこれまでも、マギー・チャンやアーシア・アルジェントといった俳優たちを主役に迎え、たくましく生きる女性たちを多く描いてきた。

「20世紀、21世紀という時代を見つめたときに、女性解放というテーマは欠かすことはできない。僕の作品のなかに、女性が物語を動かしているものが多い理由は、そんなところにあるのかな」

■もう1本おすすめDVD「カルロス」

 オリヴィエ・アサイヤス監督は、若者たちの恋愛劇から実在の革命家たちをモデルにした社会派ドラマまで、ジャンルを飛び越えながら多くの作品を発表している。なかでも、実在するベネズエラ生まれのテロリスト、イリッチ・ラミレス・サンチェスの1970年代から90年代の姿を描いた映画「カルロス」は圧巻だ。

 3部構成、計5時間半。自分は革命を起こすことができると信じ続けたサンチェス(通称カルロス)の半生を、濃密な時代の空気とともに描く。犯罪を重ねるカルロスの一つ一つの決断を通して、その先に広がる大きな世界の動きが見えてくる。年齢を重ねるにつれ変化していく肉体に対し、カルロスは革命家としての威厳を保とうと、脂肪吸引をするまでになる。そんな人間らしい側面もこの物語では描かれている。

「冬時間のパリ」のような、出版業界を舞台にした夫婦の物語と“世界を震撼させたテロリスト”という重厚感のある物語。その両方を描くのはなぜか。アサイヤス監督に尋ねると、こんな答えが返ってきた。

「自分にとっては、まったく異なる世界で起きている話とも思えないんだ」

AERA 2019年12月30日-2020年1月6日合併号