ツイッターに投稿している恋の歌が若者の共感を呼んでいるのが、鈴掛真さん(33)だ。

<「愛してる」言葉に色があったなら世界は同じ色をしている>

 鈴掛さんには比喩表現を用いた技巧的な歌もあるが、普遍性を追求した“ポップスとしての短歌”も大切にしている。

「“愛してる”はある意味では、ありふれた言葉。でも、素敵な表現だからこそ、ずっと使われ続けてきたし、そこには必ず理由がある。それをあえて短歌にするからこそ、届けられるものがあると思いました」(鈴掛さん)

 短歌を詠み始めたのは大学4年の秋、友人からもらった天野慶さん(40)の歌集を読んで、「こんな短い文章で、人の心をわしづかみにできる。短歌ってかっこいい」と打ちのめされた。その日から1、2年は毎日30首近くを一心不乱に作り、ノートに書き留めるようになった。交流サイト「mixi」で発信もした。

 短歌を詠むとき、自分の心や他者との関係を何度も探る。日常の行動、見たもの、感じた思いを振り返る。突き詰めて考え、正確な言葉に置き換える。そうした作業のなかで、自分と周囲の人との間にある壁を、意識するという。

 鈴掛さんは、同性愛者だ。幼稚園のときには既に自覚していたが、家族には相談しなかった。高校時代、親しい友人には打ち明けられたが、大学生、会社員になっても公にはできなかった。同級生に恋をしても、気持ちを伝えることができない。ただ出会えたことに感謝し、友人としてそばにいる道を選んだ。鈴掛さんの歌には、そんな切なさを感じさせるものが多い。

 12年、初の著書となるエッセイ『好きと言えたらよかったのに。』を出版するとき、周囲にカミングアウトをした。今では両親も応援してくれているという。

「短歌なら自分の存在を正直に表現できる。短歌をやっていなかったら、カミングアウトしてなかったと思う。打ち明けてから性格が明るくなったように思います。短歌が僕の自信になった」

 若い詠み手の台頭を、日本歌人クラブの三枝昂之会長(75)は「与謝野晶子がさっそうと登場して『みだれ髪』を出し、一気に新しい短歌の世界を切り開いたときを彷彿とさせる」と語る。

「風景はただそれだけで美しいものですが、人の内面を通し、言葉に置き換えることができると、さらに美しく、永遠になる。短歌の伝統形式が、若手の表現の新しさを守っているのだと思います」

(ライター・井上有紀子)

AERA 2019年12月23日号