若いファンが増えると同時に、若い詠み手も増えている。毎日歌壇の選者で、歌人の加藤治郎さん(60)はこう話す。

「ここ10年ほどで10代後半から20代の若い詠み手が増えました。ツイッターの普及がきっかけだと思います」

 若い詠み手は、一見短歌には合わないと思えるような固有名詞や表現を用いて、新たな世界を作り出しているという。加藤さんが選者を務めた短歌で印象的なものを挙げてもらった。

<以下のQRコードを読み取って世界にアクセスしてください 誤>

住谷正浩(10代、毎日新聞2018年3月26日掲載)

「誤」を「QRコード」に見立て、漢字を絵文字風に見せる作品だ。こんな作品もある。

<さっき(轟)からバック(轟)ミラーが(轟)気になる(轟)煽られて(轟)いる>

塚原康介(20代、同19年11月12日掲載)

「轟」の漢字が比喩となり、車3台が接近して危険な状態を想像させる。

 福岡市の出版社「書肆侃侃房(しょしかんかんぼう)」では、2013年から「新鋭短歌シリーズ」として若手の歌集を刊行している。現在までに48冊が出版され、無名の若手がこのシリーズから本を出したことをきっかけに、歌人として道を歩み始めるケースもある。同社代表で詩人の田島安江さん(74)はこう話す。

「自由に見える短歌は『自分にもできるかも』と思わせるし、日記感覚で気持ちを伝えられる。若い人たちは、短歌が自分たちのツールだと気づいたのではないでしょうか」

 初谷むいさん(23)も、「新鋭短歌シリーズ」でデビューした一人だ。短歌との出合いは高校1年生のとき。全国高等学校文化連盟の地区大会で札幌の歌人・山田航さん(36)の講演を聞いたのがきっかけだ。「31文字内なら自由だ」と思い、「私にもできそう」と始めてみた。山田さんに作品を見てもらい、褒めてもらったのも励みになった。

 短歌を始めたとき、初谷さんが活用していたのが、ツイッターの「別アカウント」だ。ペンネームで短歌専用のアカウントを作り、自作の短歌を投稿。好きな歌人をフォロー、情報収集した。

「普段使うアカウントで作品を公開するのは恥ずかしいけど、短歌用なら抵抗がなかった。リアルな関係では短歌好きな子は少ないので、SNS上のファンとつながりました」

次のページ