【二回目で気づく仕草のある映画みたいに一回目を生きたいよ】岡野大嗣さん(おかの・だいじ、39)/1980年、大阪府生まれ。31歳で短歌を始めた。谷川俊太郎さん、木下龍也さんとの共著『今日は誰にも愛されたかった』が今月出版予定(撮影/井上有紀子)
【二回目で気づく仕草のある映画みたいに一回目を生きたいよ】岡野大嗣さん(おかの・だいじ、39)/1980年、大阪府生まれ。31歳で短歌を始めた。谷川俊太郎さん、木下龍也さんとの共著『今日は誰にも愛されたかった』が今月出版予定(撮影/井上有紀子)
【絶対に手の届かないあの星にあなたと同じ名前を付けた】鈴掛真さん(すずかけ・しん、33)/1986年、愛知県生まれ。広告会社に勤務したのち、作家業に専念。現在ワタナベエンターテインメント所属。近著に歌集『愛を歌え』がある(撮影/井上有紀子)
【絶対に手の届かないあの星にあなたと同じ名前を付けた】鈴掛真さん(すずかけ・しん、33)/1986年、愛知県生まれ。広告会社に勤務したのち、作家業に専念。現在ワタナベエンターテインメント所属。近著に歌集『愛を歌え』がある(撮影/井上有紀子)
【カーテンがふくらむ二次性徴みたい あ 願えば春は永遠なのか】初谷むいさん(はつたに・むい、23)/1996年生まれ、北海道在住。2019年3月まで北海道大学短歌会に所属。著書に歌集『花は泡、そこにいたって会いたいよ』がある(撮影/井上有紀子)
【カーテンがふくらむ二次性徴みたい あ 願えば春は永遠なのか】初谷むいさん(はつたに・むい、23)/1996年生まれ、北海道在住。2019年3月まで北海道大学短歌会に所属。著書に歌集『花は泡、そこにいたって会いたいよ』がある(撮影/井上有紀子)

 140字のツイッターより、さらに短い31文字で表現する短歌は、SNSとの相性がいい。若手歌人が次々と登場、新たな世界観を切り開いている。

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 歌人の岡野大嗣さん(39)のツイッターの投稿には、こんな感想がついている。

「この作者の人おじさんくらいの年齢かしれんけど、とりま感性はギャル。ほんまエモエモやわ」

 おじさんの歌に、感情をかきたてられた、ということだ。投稿したのは20代の女性。次の歌がとくに気に入っているという。

ここからの坂はなだらで夕映えてムヒで涼しい首すじだった

 女性はこう話す。

「私が経験した気持ちを、初めて表現してもらえたと思った。短歌は何げない瞬間を切り取って“デコってる”。インスタに載せるために写真を加工するのと、似ている気がする」

 いま、若い世代の間で短歌が静かなブームとなっている。インスタグラムで「#短歌」のタグが付いた投稿は、約8万8千件、短歌を詠んで共有するスマホアプリ「うたよみん」には、これまでに58万首の投稿があった。アプリ内ではバーチャルな歌会が開かれ、「肉」「鳥」「はちみつ」などのテーマに合わせて歌が詠まれている。

 同月には、前出の岡野さんのトークイベントもHMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE(東京都千代田区)で行われた。約60人の観客のほとんどが10~30代ぐらい。そのうちの一人、都内の大学に通う女性(22)はこう話す。

「短歌は国語の教科書で読むものでハードルが高いと思ってました。でも、ツイッターなどで現代短歌を目にして、自分が感じていたことが、短い言葉でピタッと言い表されていて共感しました」

 短歌には五七五七七の音律で作るという意外、ルールはない。俳句と違って季語も必要ないため、現代的な感性を表現しやすい。31文字という短い文章のなかに凝縮された表現は、SNSと相性が良いと書評家の三宅香帆さん(25)は指摘する。

「短歌は前後の文章や背景がなくても味わえるので、ツイッターとの相性が良い。さらに、若い世代はユーチューブなどで短い時間で感動することに慣れているので、長い文章を読んで感情を高ぶらせるよりも、31文字という短い文章ですぐに感動できることに、魅力を感じるのだと思います」

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