「今後、さらなる高齢化と支え手となる現役世代の減少で、医療保険制度が崩壊の危機に直面することは間違いない。医療費は2015年度の42.3兆円から、25年度には1.2倍の52兆円になる。その頃には年金・医療・介護保険の保険料率は現状の29%から31%に達することが想定されます。国民皆保険制度を維持するためにも、国民自身が痛みをともなう改革は避けられないことを理解してほしい。その思いで、批判を覚悟で一石を投じた次第です」

 予想通り、発表されるや否や、健保連には抗議の電話やメールが殺到したという。

「『先にやることあるだろう、まずスギの木を切れ』というものから、やはり金銭的負担が増えるという苦情が多かったです。ただ軽症の方の場合、病院で処方されるOTCのある薬の自己負担額と市販薬の値段はそんなに変わりません。そこの理解が進んでいない印象は受けました」

 SNSにも「市販薬の値段で買い続けてたら破産するわ。何のための健康保険なの」といった批判があふれた。健保連は提言の中で、OTCが存在する一部の花粉症薬について「市販薬の方が病院での自己負担額よりも1日につき3円から32円、安い場合もある」と試算しているが、実際はどうなのか。

 記者は軽度の花粉症。毎年3月になると、耳鼻科で「アレジオン」(エピナスチン塩酸塩)を処方してもらう。今年の診療明細書と領収書を確認すると、「アレジオン錠剤20 35日分」の処方にかかった3割負担のお金は、病院で初診料を含む1090円。薬局で調剤基本料などを含む1610円。合計2700円。1日当たり約77円だ。

 同じ成分のOTCである「アレジオン20」を同程度の量、ドラッグストアで買うとすると、24錠入り(税込み約3900円)+12錠入り(約2100円)で合計約6千円。1日当たり約166円になる。仮に成分の違いを気にせず少し安い「アレグラFX」(フェキソフェナジン塩酸塩)を市販で買ったとしても、1日当たり84円ほど。病院にかかるより、やはり少しお高めだ。患者の不満は無理もないようにも思える。(編集部・小長光哲郎)

AERA 2019年11月25日号より抜粋

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小長光哲郎

小長光哲郎

ライター/AERA編集部 1966年、福岡県北九州市生まれ。月刊誌などの編集者を経て、2019年よりAERA編集部

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