国内のあるアナリストは1年半ほど前、「元々、孫氏は会計の仕組みには詳しいが、AIなど技術系の専門家ではない」と目利き力への不安を指摘していた。今回の赤字で、孫氏の目利き力に、市場からはっきりと疑問符が付いたと言える。

 孫氏自身、犬の散歩を代行する人と犬の飼い主を結びつけるアプリを運営する米企業ワグを例に出して、今後も投資した会社で損失が生じる可能性を否定しなかった。

 順風満帆だったSVFが抱えるリスクが顕在化する中、孫氏は第2のファンド「SVF2」の準備を進めている。

 赤字を発表した6日の会見でも「(投資拡大について)萎縮はしない」と強調し、「SVF2は粛々と始まる」と、方針を変えないことを表明した。孫氏はブラジルやコロンビアの企業にも投資するなど、これまでの米中印を中心とした投資から視野を広げ、今後はアフリカなどへも拡大するとみられる。新ファンド設立でさらに投資先を増やせば、「外れ」を引くリスクも高まるおそれがある。

 また、国内通信会社のソフトバンクが単体で負担する方針とはいえ、次世代通信規格である5Gの設備投資に5年間で5千億円かかることも明らかになっている。近年は安定した収益源としてグループを支えてきたソフトバンクの利益が、5G投資で圧迫されれば、グループにとっても痛手だ。

 ただ、孫氏は周辺に、投資先を昆虫に例えて「昆虫は地球に隕石が衝突しても生き残って増えた。リーマン・ショックという隕石が落ちても一つ(の投資先)は生き残る。そこからまた広がればいい」と説明。6日の会見でも「どんな企業でも10勝0敗はない」と述べ、今回の失敗で「懲りた」という様子はみじんも見せていない。

 今後もグループの経営が孫氏の目利き力にかかっているという、市場にも社員にもスリリングな状態は続く。(ライター・平土令)

AERA 2019年11月18日号