東京西部の山手地域では、東京都が拡張整備を進めている環状7号線地下広域調節池が奏功した。05年9月の集中豪雨では善福寺川が氾濫し、中野区と杉並区の約3千戸が浸水したが、今回は同じ武蔵野台地を流れる神田川や妙正寺川とともに氾濫を免れている。

「上流のダムなどが果たした役割も大きい」

 そう話すのは早稲田大学の関根正人教授(河川工学)だ。台風19号は下流の平野部より山間部に位置する大河川の水源地付近に大量の雨を降らせたが、ダムはその水が下流域の水位を上げるのを食い止めたという。中でも八ツ場ダム(群馬県長野原町)は10月1日に始めたばかりの「試験湛水」によって空っぽから約7500万立方メートルの水をため込んだ。

 八ツ場ダムは民主党政権の事業仕分けで中止が宣言されたが、流域6都県の知事が継続を求めるなどの紆余曲折を経て建設された。環7地下調節池もかつて過剰投資との批判を受けた。今回、東京ではこれらの巨額投資が功を奏した形だが、前出の土屋さんは「今回は起きなかったが、高潮が起こったらゼロメートル地帯は沈んでしまう。避難高台地とスーパー堤防の整備は急務だ」と指摘する。

 一方で、災害対策は金さえかければいいというものではない。前出の関根教授は後世に残せるハード造りが大切だと強調する。

「例えば堤防なら、平常時の都市景観を考えるとむやみに高くすればいいものではありません。住民がどの程度許容できるか、後世の人たちのことも考えて正しい判断をしていくことが大切。今回の豪雨を教訓に、知恵を出し合ってほしい」

(編集部・大平誠、野村昌二)

AERA 2019年10月28日号より抜粋

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野村昌二

野村昌二

ニュース週刊誌『AERA』記者。格差、貧困、マイノリティの問題を中心に、ときどきサブカルなども書いています。著書に『ぼくたちクルド人』。大切にしたのは、人が幸せに生きる権利。

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