今月8日に開かれた、変形労働時間制導入の撤回を求める院内集会には、与野党の議員や教員など約100人が集まった(撮影/写真部・小黒冴夏)
今月8日に開かれた、変形労働時間制導入の撤回を求める院内集会には、与野党の議員や教員など約100人が集まった(撮影/写真部・小黒冴夏)
AERA編集部作成
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 全国の教員たちが、過労死ライン超えの長時間労働にあえぐ。改善策として今国会で審議されるのが変形労働時間制だ。だが、「教職を続けられない」と悲痛な叫びが相次ぐ。

【グラフ】「変形労働時間制」で働き方はこうなる!

「変形労働時間制が導入されたら、子育てとの両立は不可能。教師の仕事は辞めざるをえなくなります……」

 そう不安を漏らすのは、来春、育休復帰を予定している都内の小学校教員の女性(30)だ。小学校教員の3割、中学校教員の6割が過労死ライン超えの長時間労働にあえぐなか、国が導入しようとしているのが「1年単位の変形労働時間制」だ。

 授業のある忙しい時期の定時を延ばす代わりに、夏休みなど「閑散期」の勤務時間を短くすることでたっぷり休めるようにする。仮に終業時間が17時だとすると、繁忙期は最大19時まで延長され、その分、閑散期は15時に退勤できたり、数日間まとめて休めたりする。

 ところが、子育て世代の教員たちからは困惑の声が相次ぐ。一般的に保育園の預かり時間は18時台まで。延長しても19時~19時半ごろのため、19時近くの退勤では迎えの時間に間に合わない。先の女性教員は言う。

「同世代の30歳前後は採用人数が多く、いま出産、子育て期に入っています。変形労働時間制が導入されたら、大量退職せざるをえなくなり、公教育は成立しなくなるのではないでしょうか」

 これに対し文部科学省は「4、6、10、11月の繁忙期の計13週について、勤務時間を週3時間増やし、その分、夏休み期間中の8月に5日間休むイメージだ。子育てや介護中の教員への配慮は大前提にしている」と言うが、実効性があるかはわからない。

 9月中旬、「変形労働時間制の撤回」を求める緊急ネット署名を「斉藤ひでみ」のツイッター名を持つ高校教員の西村祐二さん(40)と、「全国過労死を考える家族の会」の工藤祥子さん(52)が開始。すると、わずか3週間で3万筆以上が集まり、今月8日、院内集会も開いた。

 教員たちの怒りの矛先は、実態とかけ離れた「閑散期」という発想に向かう。内田良・名古屋大学大学院准教授は、国が各月の勤務実態の統計を取ることなく変形労働時間制の導入を目論んでいることを問題視する。

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教員だった夫を過労死で亡くした妻の指摘は