新井さんは「子どもがつらいとき、苦しむ姿から目をそむけずに見届けられる親でありたい」と言う。

 優芽ちゃんのように、外見に症状を抱える人は、学校や恋愛、就活など人生のさまざまなシーンで苦労することがある。「見た目問題」と呼ばれる。治療の緊急性や機能的な障害もないことが多いため、社会から軽くあしらわれがちだ。だが、当事者たちが経験した苦しみは決して軽くない。

 優芽ちゃんの髪の毛が抜け始めたのは生後11カ月から。朝起きると、枕に髪の毛がべったりと落ちていた。

 新井さんを追い込んだのは「円形脱毛症=ストレス」という固定観念だった。円形脱毛症はストレスとは関係なく発症する人も多く、ましてや親の育て方は関係ない。だが、スーパーで買い物をしていると、近づいてきた中年女性に「どういう育て方をしているの? かわいそうに、はげちゃっているじゃない」としかられた。

 脱毛は、かつらで隠すことができる。症状を隠すことを子どもに勧める親もいる。だが、優芽ちゃんはかつらをかぶらず、「隠さない生活」を送っている。

「私も隠すべきだと思っていました。でも、優芽が帽子やかつらを『邪魔だ』と嫌がったんです」

 幼い頃、周囲の視線にひやひやする新井さんにお構いなしに元気に遊び回る優芽ちゃん。保育園の友だちは髪のない娘を受け入れてくれた。そんな様子に「無理に隠さなくてもよいのでは」と気持ちがほぐれていった。

「隠さないと意思を示した優芽を見て、彼女には彼女の人生があると考えられるようになりました。『脱毛を治さなきゃ、隠さなきゃ』という私のこだわりは優芽のためというより、自分の不安を消したいだけだったと気づきました」

 新井さんは2017年6月から、子ども用のウィッグ(オシャレ用かつら)をメーカーと共同で開発し、販売している。蒸れたり、チクチクしたり、重かったりという子どもが嫌がる要素をできるだけ取り除いた。当事者の子どもたちに、脱毛を隠すためというより、オシャレのアイテムとして使ってもらいたいと思っている。

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