さっそくJINSの店舗で手当たり次第に試着して、タブレットにメガネの似合い度を判定してもらった。例えば稲田朋美議員ふうの細ぶち系だと、女性から見た似合い度は77%だが、男性から見ると91%と高得点をマーク。やるな稲田メガネ。

 一方、お笑いタレントの光浦靖子さんふうの太ぶち系では、男性81%、女性88%と男女の評価が逆転だ。ぶっちゃけほしいのは老眼……いや、リーディング用のメガネだが、こう言われると迷わず細ぶち系を選ぶわな。このサービスはJINS各店舗のほか、スマホのアプリでバーチャルに試すこともできる。

 ほかにも、ユーザーの好みを学習して服を提案するAIスタイリストなど、サイズや好みなど大量のデータを学習して最適な商品をレコメンドする、AIを使ったファッション関連サービスは次々と実用化されている。ではAIがファッションそのものを作ることはできるのか。

「将来AIが、人との共同作業のような形で、ファッションに貢献することを期待しています」

 今年3月、理化学研究所などと連携して、AIを活用してデザインしたドレスのファッションショーをおこなった東京大学生産技術研究所の合原一幸教授はそう話す。今回AIは次のプロセスでドレスを作り上げた。

 まずファッションデザイナーのエマ理永(りえ)さん(エマリーエ)の協力で、彼女がデザインをしたドレスの写真を約500枚用意。AIにこれを学習させ、“エマ理永ふう”のドレスを無数にデザインできるAIを作った。

 ここまでは、「バッハふうの音楽を作る」「フェルメールふうの絵画を描く」AIなどと似た類いの技術だが、ここからが人とのコラボ作業の始まり。“エマ理永ふう”のAIが生んだデザインを、エマ理永さん本人に見てもらい、おもしろいと思ったものに再びご本人が手を加えた。最後に新たな服として作り上げたのが写真右上のドレスだ。

「AIが生み出したデザインのうち、100個に一つという、思ったより高い確率で、エマ理永さん本人がおもしろいと感じるようなものがあったといいます。AIが生成したパターンに触発されて、エマ理永さん本人が新しいデザインを生み出すという、AIと人との共同作業が成功した。そして美しいデザインが新たに生まれたことが、このファッションショーの大きな成果のひとつだったと思っています」(合原教授)

 囲碁や将棋など、ルールがはっきりしている分野はAIにデータを学習させやすくAIの活用がうまくいくことが多い。一方でファッションなど、人によって感じ方が違う「美」にまつわる分野は、AIが苦手とすると考えられている。ただし、人とAIが協力することで、ファッションやデザインが大きく進化していく可能性はあると合原教授は考えている。

「よくAIに仕事を奪われると言われるが、これは誤解。人の脳がAIをうまく活用して協働することによって人の能力を拡張させれば、1+1が2ではなく、10にも100にもなりうる。限りあるコマを取り合うのではなく、コマはどんどん増えていくのです。AIと上手につきあうことで自身の力を伸ばすデザイナーが、高く評価される時代がくるでしょうね」(同)

 AIと人との幸せな関係。ファッションはそれをまっさきに実現する、象徴的な分野になるか。(ライター・福光恵)

AERA 2019年9月23日号