しかし、40年間災害対策に携わってきた防災・危機管理ジャーナリストの渡辺実さんは「被災に“まさか”はない」とし、災害に備えることは、もはや国民の義務だと指摘する。

「現代の日本で、災害が起きない場所はありません。“防災”には限界がある。僕らはある日突然、被災者になるんです。被害を減らす“減災”も大切ですが、今必要なのは、災害に備える“備災”の力をつけることです」

 渡辺さんによると「備災力」とは、発災時に命を守り、支援が届くまでを耐え抜く「生き残る力」と、発災後の過酷な生活に立ち向かう「生き延びる力」のことだという。編集部では渡辺さんの協力のもと、主に風水害と地震をターゲットに、備災力をつけるためのタスクを書き出した。

 タスクは合わせて110。「家族・自宅・地域の災害耐性を知るために」「災害への備えを習慣化するために」の部分は災害の種類にかかわらず、すぐにでも取り組みたい項目だ。また、「大地震から身を守るために」「被災後を生き抜くために」ではいざ災害に遭遇したときに役立つ知識もまとめた。ただし、渡辺さんによると、もっとも大切なのは災害をリアルにイメージし、自分に必要なタスクを見つけ出すことだという。

「災害対策はケース・バイ・ケースです。一般解が正解とは限りません。まずは、自分が住んでいる家や職場にある危険を見つけましょう」

 自身の生活を振り返り、「いつ、どこにいるとき、どんな災害が起きるか」を想像してみる。通勤・通学途中、地下鉄に乗っているときに地震が起きたらどうなるか。雨が降り続き、自宅で寝ているときに近所の川が氾濫したら……。自分や家族の生活空間と、時間帯や季節などの時間軸を組み合わせて起きうる災害をイメージし、危険を見つけてできることから手を打つのだ。

 常日頃から災害について考え続けるのは難しい。それでも、年に1度でも、家族で身の回りの災害リスクを考える日をつくるといい。災害が起きた時、家族と一緒にいるとは限らない。家族間の連絡方法や集合場所を決めておくことも必要だろう。(編集部・川口穣)

AERA 2019年9月9日号より抜粋

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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