「夜間や休日は人員が限られていて、難しい症例も自分で判断し、分娩や救急診療に対応しなければならない。こうした経験は産科医として実力をつける大切な経験になります。子どもがいるから、女性だから、当直できない、学会に行けないと思い込み、自分の可能性を狭めるのはもったいない。免除が当然と思わずにできる範囲で担当することも考えてはどうか」

 同センターは、そういう働き方を実現できるシステムを導入している。産科の常勤医26人中、女性は22人で85%を占める。そのうち7人は中学生以下の子どもがいて、未就学児がいる人も3人。それでも全員が夜勤を担当する。

 同センターで子育て中の女性医師が働き続けられるのは、変則2交代制を導入して、拘束時間を短くしたからだ。日勤は朝8時半から午後5時まで働き、夜勤は午後8時から勤務し、翌朝午前9時に帰る。日勤と夜勤のつなぎのため、日勤者のうち3人が午後8時まで延長勤務し、夜勤者へ引き継ぎを行って帰宅する。この体制は1人主治医制ではなくチーム診療で対応したことで実現。妊婦健診は、地域の産科診療所や助産院と連携して分担し、出産は緊急時にも対応できる同センターで行っている。難しい業務に人を集中できるようになり、分娩数も増えた。

 同センターが交代制を導入するきっかけになったのは、09年に労働基準監督署の指導が入ったことだった。当時、夜の勤務は、法定労働時間にはカウントされないいわゆる宿直で、朝から勤務していた医師がそのまま当直に入り、当直明けの翌日も夕方まで診療していた。32時間以上の連続勤務が当たり前で、月の残業が200時間を超える医師もいた。交代制では、拘束時間は連続で最長13時間。木戸医師は言う。

「私たちの仕事は、お母さんと赤ちゃんの命を預かっています。迅速な判断が求められ、緊急の手術もあるのに、寝不足でへとへとに疲れていたら、医療の安全も保てなくなってしまう」

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