木戸さん自身も長時間労働を経験してきた。三男の出産後に同センターで勤務。当時子どもは9歳、6歳、0歳。夫も産婦人科医で当直があり、互いの両親も遠方に住んでいて頼れない。夫と当直が重ならないように調整し、ベビーシッターも頼んで子育て期を乗り切った。当直の朝は、4食分の食事を用意してから出勤。32時間勤務を終えて翌日夜に帰宅すると、久しぶりに会う3人の息子たちの相手をしながら家事に追われた。自分と同じような無理な働き方は後輩医師たちにはさせられないと思ったという。

 交代制勤務の導入当初はうまくいかないこともあった。実稼働時間が減ったことで給与が激減し、退職した医師もいたという。原則、決まった主治医は置かず、健診ではかかりつけの診療所の受診を妊婦らに理解してもらうことも必要だった。

 木戸医師は言う。

「医師の働き方改革を実現するには、患者のみなさんの協力も不可欠です」

 日本産科婦人科学会の医療改革委員会で「産婦人科医療改革グランドデザイン2015」の作成を担当した北里大学病院周産母子成育医療センター長の海野信也医師は言う。

「日本の妊産婦死亡率は10万人あたり3.5人と世界トップ水準の低さにありますが、いつ崩壊してもおかしくない。今後も医療水準を保つためには、地域で基幹的な役割を果たす病院を決めて、医師を集める『重点化』が必要だと考えています」

 各病院がギリギリの人数で分娩に対応するのではなく、重点化して人を集中させる。特に県庁所在地などでは、県立病院と市立病院、大学病院が近接しているところもあり、重点化を進めなければ、医師たちが疲弊して共倒れしてしまう可能性がある。だが、各病院は経営母体が違うため、重点化も簡単ではない。分娩施設へのアクセスや医療資源なども地域で違い、地域ごとの検討が必要だ。それは、分娩施設の減少やアクセスの悪化など国民にも痛みを伴う改革になることもある。

「安心・安全な出産ができる体制を守るために、病院内の働き方改革とともに、地域ごとの産科医療体制の再構築を進める必要があります」(海野医師)

(編集部・深澤友紀)

AERA 2019年8月26日号より抜粋