映画は群像劇のようでありながら、一人ひとりのキャラクターが心に残る。リアルに感じられるのは、監督が「自分自身を少しずつ投影させている」からだ。例えば、40歳を過ぎてもミュージシャンになる夢を捨てきれず、給食の賄いをしながら車を根城にして音楽活動をするシモン。監督自身は演劇学校へ通って俳優となるチャンスを得たが、40代も後半になると俳優の仕事は少なくなる。そんな時どうやって生活していくのか、40歳過ぎても夢が叶わなかったらどうするのか。シモンのような人物を造形するのは難しいことではなかった。

「今作で一番難しかったのは、常に映画に誠実であることです。センチメンタルな部分と喜びをバランスよく、どちらかに偏らないようにしました。毎日7割は映画のことばかり考えていましたね」

 とはいえ、キャストの中にはシンクロ以前に泳げない俳優もいて、監督自身、「(映画は)無理かと思った」そうだ。そんな俳優たち自身の奮闘もぜひ確認してみては。

◎「シンク・オア・スイム イチかバチか俺たちの夢」
7月12日から全国公開

■もう1本おすすめDVD 「ウォーターボーイズ スタンダード・エディション」

 2001年9月の公開当初は、「男のシンクロ!?」と思いもよらない企画で大ヒット。今や日本で男子のシンクロと言ったら、見ていない人でもこの映画を思い浮かべるに違いない。

 唯野高校水泳部は部員が鈴木智(妻夫木聡)一人となって廃部寸前。そんな時、突然顧問としてやってきたのが、新任の美しい佐久間先生(眞鍋かをり)。彼女に引かれて大勢の男子たちが入部してくるが、先生が「シンクロをやる」と言い出した途端、皆一斉に逃げ出してしまう。

 残ったのは鈴木と、アフロ頭の佐藤(玉木宏)、ダンス少年の太田(三浦アキフミ)、カナヅチの金沢(近藤公園)、なよなよした早乙女(金子貴俊)の5人。彼らは産休に入った佐久間先生の代わりに、ひょんなことから知り合ったイルカ調教師の磯村(竹中直人)から指導を受け、シンクロに挑戦する羽目に……。

 おバカな高3男子たちが先生に叱られたり受験勉強に悩んだり。物語は後半へ向かうほど盛り上がる。クライマックスのシンクロシーンは男子ならではの大迫力。

 暑さにうんざりしている人、最近笑ってない人にぜひオススメしたい青春映画。

◎「ウォーターボーイズ スタンダード・エディション」
発売元:フジテレビジョン/アルタミラピクチャーズ/電通 
販売元:東宝 価格2800円+税/DVD発売中

(フリーランス記者・坂口さゆり)

AERA 2019年7月15日号